ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
 自分よりも身分が下のご令嬢を屈服させることに喜ぶ変態令嬢なんて、茶会の処刑人よりっぽど相応しい二つ名だと思うわよ。

「彼女は確か、黒髪だったわよね」
「はい」
「……ちょうどいいタイミングかもしれないわね」

 変態令嬢へどのように罪を償わせるか、迷っていたけれど……彼女の処遇は、第二皇子に決めてもらいましょう。
 彼女は黒髪金目。
 第二皇子が私を探すために令嬢たちへ送付される手紙は、彼女の元にも届くはずよ。

 問題は、変態令嬢が手紙を手にする前に、哀れな子羊と入れ替わりが完了できるか怪しいってことだけね。

「ラヘルバ領へ向かうわ」
「ご武運を」

 カフシー家に戻って、これからゆっくり羽を休めているであろうお兄様には悪いけれど。
 昨夜馬車の中で散々煽ってきた責任は、取ってもらうわよ。

「お兄様!」

 教会の滞在時間はわずか5分。
 ドレスを翻し、急ぎ足でカフシー家に戻った私は、勢いよく扉を開け放つ。

「お兄様は?自室かしら?」
「大広間で家族会議を……」
「ありがとう!」

 何事かと視線を向けてきた使用人を呼び止め、私はお兄様の行方を探る。
 家族会議をしているのなら……私と第二皇子の密会を、両親に相談している所かもしれないわね。
 お兄様は第二皇子と私を婚姻させたがっているし、両親も第二皇子が乗り気だと知ればお兄様を後押しするはずよ。
 私はなんとか家族の手から逃れ、ラベルバ公爵家へ潜入する権利をもぎ取って見せるわ!

「お父様!緊急案件ですわ!」
「ミスティナ……。迷える子羊達よりも緊急度が高いのは、お前の方だろう」
「いいえ、お父様!第二皇子など、その辺で待たせておきなさい!緊急度は私よりも、迷える子羊の方が高いですわ!現場で今も、変態令嬢に迷える子羊は虐げられていますのよ!?」
「ぶっ」

 紅茶を口に含んだお兄様は、私の口から変態なんて言葉が飛び出て来たことに驚いて、勢いよく紅茶を吐き出した。
 その様子を見ていたお姉様は即座に使用人へ床を掃除するよう指示を出し、お母様は頬に手を当て困ったように微笑んでいる。
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