ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
「ここ、赤くなってるね……」

 ツカエミヤに成り代わっていた際、地面に強く額をぶつけた部分が赤くなってると指摘してきた彼は、邪魔な前髪をかき分け赤くなった場所を露出させる。
 彼は優しく触れているつもりかもしれないけれど、私の身体にはピリリとした痛みが走った。

「おれの女神に傷をつけた報いは、きっちりと精算してもらうから……。心配はいらないよ」

 彼は私が迷える子羊を救うために、自ら危険の中に飛び込んで行っていると知ったら。彼はどう思うのかしら?
 百年の恋も冷めるといいのだけれど。
 地面に額をぶつけて、赤くなった。いつかは消える些細な傷がついただけで、これほど心配するなら……大怪我をした日が恐ろしいわね。

「私を探し出すため、黒髪金目のご令嬢に手紙を出したんですって……?」
「君が、名前を教えてくれないから。おれはどうしても、君じゃなければ駄目なんだ」

 彼は私から離れないように、強く抱きしめる。何度求められても、その明確な理由が一目惚れだけでは、こちらも納得できないわ。
 病弱な箱入り娘、領地から一歩も外に出たことがないと噂のミスティナ・カフシーに、男性との出会いなど本来であれば存在しない。私は二つ返事で彼の手を取るべきだ。
 彼だってそれを望んでいるし、皇子と言う立場上、なぜこうまでして頑なに私が婚姻を拒むのか不思議で堪らないはずだわ。

「私よりも、もっと星空の女神と呼ばれるに相応しい令嬢が、どこかにいるはずだわ……」
「嫌だ」
「……子どもみたいなわがままを言わないで」
「──君だけ、なんだ……。君はおれを……皇子として(うやま)っていないだろ」

 私の邪魔ばかりする、気に食わない奴。それが彼に抱く私の印象かしら。
 彼は王族だからと無条件に敬うご令嬢に、苦手意識を持っているみたいね。
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