ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
「誰もおれのことなんて、気に留めていなかったのに……都合のいい時だけ、おれを利用しようとする。そんな奴らののことなんて、好きになれるわけがない」
「私が貴方の嫌いな人間ではないと、どうやって証明できるの?」
「わかるよ。見ていれば、わかる。君はとても、優しい子だって……」

 迷える子羊を救う為に暗躍しているとを言う意味では、たしかに彼の言う、優しい子に該当するのかもしれないわね。
 カフシーの家に生まれたから、私は迷える子羊を命懸けで救うことこそが、私の姿を使命だと思っている。アクシー家が迷える子羊の憂いを晴らす代行業を営んでいなければ、私は彼が嫌う令嬢たちと全く同じ感情を(いだ)きながら、日々を過ごしていたはずよ。

「貴女と婚姻したら……私は家業を、諦めなければならないの」
「……どんな家業なんだ」
「秘密」

 カフシーが代行業で生計を立てているなど、王族に告げるわけにはいかない私は口元に人差し指を当て誤魔化した。彼は私がどんな家業を営んでいるのか知りたくて堪らなかったようだけれど、あんまりしつこいと私が逃げてしまうと考え直したんでしょうね。
 深くは追求して来なかった。

「皇太子の件は、聞いているでしょう」
「婚約者に、暴力を振るったみたいだね」
「ええ。この国を継ぐのは、貴方よ」

 現実を突き付けてやれば、彼は興味なさそうに私の長い黒髪へ顔を埋めた。私のことを星空の女神など恥ずかしい名前で呼ぶようになったのは、私が夜空のような黒髪と、光り輝く満天の星々を持って生まれたから。

 私を自分のものにしたくて仕方がない彼は、私の許可を得ることなくベタベタとスキンシップを測る。
 魔力回復薬を一気飲みしたせいで、抵抗する気が起きないだけ。こうしてベタベタと密着する機会などなかった私は、どう反応していいのかすらもよく分からず、彼の好きにさせている。
 これがお兄様だったら、いつまで密着しているつもりなのかとぶん殴れるのに──。
 皇太子様には、困ったものね。

「私は家業に、誇りを持っている。このままずっと、続けていくつもりよ。皇后として、貴方と同じ道は歩めない」
「おれを愛していないから?」
「貴女を愛せるようになったら、皇后として貴方を、支えられるとでも?ふふ。面白いことを言うのね。貴方を愛していても、いなくとも。国のことを第一に考えるのが、皇后の役目でしょう」

 この国をより良き国にする為にカフシーは暗躍しているけれど、皇后になれば……。影でこそこそ、隠れて悪者に裁きを下す必要はなくなるのよね。
 彼と婚姻すれば、大した苦労もせず最高権力者の仲間入り。私は今までと同じようなことを、堂々と行っても許される。
 皇帝となるであろう彼の許可も得ず、無断で悪者に裁きを下せば、間違いなく死期は早まるでしょうね。

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