ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
 幸せの絶頂期、恨まれて暗殺される悲劇の皇后。

 彼と結ばれる未来などあるはずがないと、私はその未来を否定した。

「……うん。やっぱり君は、他の令嬢とは違う」

 愛していたとしても、いなくとも。
 彼に望まれて皇后になった私がするべきことは変わらないと──そう告げた私へ、彼は満足そうに微笑んだ。
 すっかり泣き止み機嫌を良くした彼は、私の長い髪に顔を埋めているのをいいことに、私の髪に口付け始めた。

「普通の令嬢は、王に愛されることが皇后の役目だと思っている。国がどうなろうとも知ったことじゃない。おれの愛よりも、国を思う星空の女神が……おれは愛おしくて仕方ない」
「そう……」
「ますます手放せなくなったよ。逃げないで。ずっと、おれのそばに居て欲しい。君は……どうしたら、おれのものになってくれる?」

 私に関わらないで。しつこいのよ。追いかけて来たって時間を無駄にするだけだわ。貴方を好きになることはない。
 否定の言葉を思い描いても、どれもがしっくり来なかった。
 私は異性から求められたことがない。
 血の繋がった父や兄と言葉を交わすことはあれども、ミスティナは領地から出たことがない設定だ。
 異性から求められる機会など、あるはずがない。

 迷える子羊に変身魔法を使って成り代われば、面と向かって愛を囁かれることもあったけれど──それは私に向けられた言葉ではないから。私がその気になることはなかった。

 成り代わった迷える子羊に向けて愛を囁かれても、何も感じないのに。彼から求められると、胸の奥がゾワゾワするのは……何故なのかしら……?

 好きだとか、愛しているとか。
 未知の感情だと思っていたソレが、私の身体を這いずり回り──私の心を侵食していく。この思いに飲み込まれ、彼の気持ちを受け入れたら。私はどうなってしまうの……?

「私には、よくわからないわ」
「……わからない?」
「誰かを愛することや、恋をすること。貴族間の婚姻に、愛など必要あるのかしら」

 私は狂おしい程に相手を愛するあまり、利用続け捨てられた哀れな子羊を見過ぎてしまった。
 私の親友であるロスメルも、誰にも長い間暴行を受けていたと打ち明けられなかったのは、彼を愛していたからだ。
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