ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
 異性を思う気持ちほど、厄介な気持ちは無い。
 誰かを愛すれば、その分愛を返して欲しいと願う。
 誰かに愛されていると実感すれば、もっと愛して貰えるように、背伸びをしてでも愛して貰おうと努力する。

「おれがこれから、一生を掛けて君に教えるよ」

 彼は誰かを愛する気持ちを、よく知っている。私を愛しているからこそ、責任を持って私に愛の必要性を教えてくれると告げた。
 愛の必要性など教えられた所で、彼を好きになる保証などどこにもないのに。よくやるわ。どうしてそこまで、私に入れ込むのかしら。理解できないわ。

「……愛の必要性を理解したら、おれの妻になって欲しい」
「愛の必要性が理解できなかったら?」
「その時は……諦めるよ」

 本当に諦められるのかしら?
 その言葉を信じるなら──彼が諦めるまで、気持ちを否定し続ければ良いだけだわ。王族は遅かれ早かれ、子孫を繋ぐために婚姻が義務付けられている。
 5年か、10年か、20年か──気が遠くなるほどの攻防戦ね。何事もなく、お別れなど出来るのかしら……?

「生涯独身を貫いてもらっては困るのよね」
「じゃあ、」
「私は殿下と婚姻する気などないわ。10年、私が殿下の愛を理解できなかったら、他のご令嬢と婚姻して」

 彼は私の髪から顔を上げて、難しそうな顔をした。
 口を開くことはなかったけれど、私の言葉に何かしら不満があるようね。
 私は目元を腕で覆い隠し、気分の悪さどうにか押しやると、彼に問いかけた。

「文句があるのなら、いいなさい」
「10年も、おれから逃げ切るつもりなんだ……」

 自分から提案してきたくせに。
 彼は私が永遠に逃げ続ける気であると知り、ショックを受けていた。
 しゅんと項垂れる姿を見つめていると、なんだか小動物のように見えてきて、可哀想になってきた。
 可哀想?絆されては駄目よ。彼が私に抱く愛を理解することなく、10年間逃げ続ければ、私の勝ちなんだから!
< 32 / 118 >

この作品をシェア

pagetop