ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
「いい方向に考えたらどうかしら。殿下が私を愛し続ければ、私は殿下の想い人として、名を馳せることになるでしょう」
「おれが了承すれば、君は……。おれが言い寄ったとしても。まっすぐ、受け止めてくれる?」

 これは、逃げるなってことよね。
 ああ、嫌だわ。こんなのから10年も逃げ続けなければならないなんて。
 変身魔法はバレてしまったけれど、私がミスティナ・カフシーであることはバレていないのが幸いね。私の正体が露呈するのも、時間の問題でしょうけれど。

「ええ」

 適当に約束をしておけば、彼は嬉しそうに微笑み、私を力強く抱きしめた。
 一人の女と約束をして喜ぶ第二皇子──女に狂っておかしくなる王族など、誰も見たくないわよね。

 私は顔を覆い隠していた腕を少しだけズラし、彼の従者を見つめた。
 流石は沈黙の皇子と呼ばれし男の従者ね。顔色一つ変えずにぼーっと突っ立っている。

「ありがとう。星空の女神……。10年なんて言わずに、3日でおれの虜にしてみせるから……」
「……」

 耳元で甘い言葉を囁く彼の言葉を軽く聞き流し、従者の様子を窺っていると気づいたんでしょうね。無表情の従者は、気の毒そうに私を見つめた。
 主に対してか、私に対してかは微妙な所ね。

 彼に対してだと思いたいわ。私に対してだったら、彼から逃げられるわけなどないと批難されているようで……不快ですもの。

「星空の女神?アンバーが気になるの?」

 星空の女神と呼ばれるは嫌で仕方がないけど。彼が私の名を呼ぶ時は、私の正体が露呈した時だけだ。
 私は名前を名乗るわけには行かず、仕方なく星空の女神と呼ばれることを甘んじて受け入れる。
 彼からは、星空の女神と呼ばれるよりも──君と呼ばれた方が、好きだわ。

「別に……」
「気に入ってくれて嬉しいよ。アンバーは、おれが一番信頼している。兄みたいな存在なんだ」

 彼は子どものように、無邪気な笑顔を浮かべた。私を満足そうに抱きしめ微笑む姿だけを見たら、彼が沈黙の皇帝と呼ばれし第二皇子であることを疑うでしょうね。

 沈黙の皇子と呼ばれる姿が偽物なのか。
 私に好かれようとする余り、偽りの自分を生み出したのかは──判断がつかなかった。
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