ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
「神の代行者様!」

 教会の床に膝をつき、両手を重ね合わせていた女性が私を見て、パッと表情を明るくさせた。
 お兄様はそれが誰かを認識すると、私と繋いだ指をゆっくりと離し、教会を出ていく。
 気を使ってくれたのかしら……?

「ツカエミヤ?」
「はい!ツカエミヤです!この度は……っ。私の願いを聞き届けてくださり……本当にありがとうございました……!」

 遠路はるばる王都から、わざわざお礼を言いに来てくれたなんて。ツカエミヤは素晴らしい信仰心の持ち主ね。

 深々と頭を下げてお礼を告げたツカエミヤは、私を神の代行者様と連呼しては、変態令嬢が第二皇子の手によって罰を受けたことなどを嬉々として話してくれる。
 ラヘルバ公爵家で、確かに私は神の代行者としか名乗らなかったけれど……連呼されるのは恥ずかしい。

 神の代行者様と慕われるくらいなら、星空の女神と呼ばれる方がまだマシね。

「ラヘルバ公爵家はお嬢様の言動が問題となり、爵位を剥奪されました」
「そう。再就職先の斡旋(あっせん)は?」
「私は神の代行者様が真っ向から戦いを挑むお姿に、酷く感銘(かんめい)を受けました……!」
「……感銘……?」
「はい!私も、代行者様のお力になりたいです!」

 神の代行者と呼ばれるのが嫌だとしても、ツカエミヤが今どのような立場に置かれているのかを確認する前に、私がミスティナ・カフシーであると名乗るのは愚策(ぐさく)だわ。
 ツカエミヤの身元をはっきりさせてからにしようと聞き取り調査をすれば、彼女は私の力になりたいと志願した。

 侍女としては、変態令嬢にいつも怒られてばかりだったと聞いたけれど……。
 彼女は私に、どのような力添えをするつもりなのかしら?

「貴女は私の、どんな力になってくれるの?」
「あの、私をずっと守ってくださった方は……地獄耳の魔法を使えるんですよね?私も、地獄耳の魔法が使えるんです!あの方が代行者様のお力になれるのなら、きっと私だって代行者様のお力になれるはずです!」

 地獄耳の魔法が使える侍女を探そうとしたら、本人が私の力になりたいと志願してきたわ。
 こんな偶然、あってもいいのかしら……。

「お兄様」

 私は二つ返事でツカエミヤを迎え入れることはせず、空気を読んで姿を消したお兄様を呼び寄せた。
< 47 / 118 >

この作品をシェア

pagetop