ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
「ミスティナ様、お忙しい中お呼び立てしてしまい、大変申し訳ございません」
「いえ。お呼び頂き、感謝していますわ。彼女は私が探し求めていた人材ですもの。テストの結果次第では、大切に育てるわ」

 地獄耳の魔法が使えると自慢げに語るのだから、不合格になるわけがないのだけれど……。
 もしもの可能性は、常に考慮しておかないとね。
 私は念には念を入れ、教会内に盗聴魔法などが仕掛けられていないことを確認すると、15分後に虚空へ向かって祝詞(のりと)を紡ぐ。

 ──ツカエミヤはこの長ったらしい言葉を、一言一句漏らさずに聞き取れたかしら?

 ツカエミヤが聞き漏らすことなく覚えていてくれたら、私は地獄耳の侍女を求めて歩き回る必要がなくなるのだけれど……。

「んだよ、あの台詞」
「お兄様。お帰りなさい」
「俺に対する嫌がらせかよ」

 お兄様の耳にはしっかりと私の声が聞こえていたようで、話の内容を聞いて私の正気を疑っていた。あら、嫌だわ。嫌がらせだなんてとんでもない。
 私は神に改めて、誓いを立てただけなのにね?

「あー、疲れた」

 お兄様はわざとらしく言葉を吐き出すと、私の隣に腰を下ろした。
 背もたれに両手を投げ出し、足を組んだお兄様は天を仰ぐ。

「たった往復30分歩いただけで疲れるなど、カフシー長男の名が(すた)るわよ」
「うるせぇな……。てめぇのわがままで、30分歩かされたんだ。俺の疲れを癒やせ」
「もう、お兄様ったら……」

 お兄様は当然のように私を抱き寄せると、お兄様の逞しい胸元に押し付けた。
 最近のお兄様は情緒不安定ね。
 突然甘えてみたり、私を求めたり──その気まぐれな言動が鳴りを潜め、元に戻るのを待つことしか……私にはできそうにない。

「憎たらしい妹を抱きしめたくらいで、疲れは癒せるの?」
「憎たらしい妹が抵抗せず、俺に身体を預けているからこそ、疲れが取れるんだろ」
「そう言うものかしら」
「そう言うもんだ」

 お兄様がそういうなら、これ以上は私が何を言っても無駄になるわね。
 私達はツカエミヤが来るまで、静かに身を寄せ合った。

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