ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
「殿下。お返事を返せなくてごめんなさい。たくさんのお手紙を、ありがとうございました。内容はこの1枚しか確認できなかったけれど──1日24枚も手紙を書き綴り送るなど、大変だったでしょう」
「君のことを思えば、無限に書き記すことだって苦じゃないよ。おれにとって、君へ愛を囁くことは……何よりも代えがたいご褒美だから」

 変身魔法でお父様に姿を変え、お兄様の手に渡る前に奪い取った手紙を開いて殿下へ見せる。
 彼は目元を緩ませて私を見つめた。凍えるような彼の怒りは少しだけ収まったようだけれど……その笑顔には怨念に近い、得体のしれない愛情が籠もっている。
 それを恐ろしいと感じるか、私をこれほどまで愛してくださるなんてとありがたく感じるかは、個人差があるでしょうね。

 私はどちらの感情も抱けないけれど、ツカエミヤは前者の感情が強い。
 私を庇いながらも、尋常じゃないほど怯えている姿を見ると、なんだか可哀想になってくるわ。

「そう言っただけるだけで、充分よ。本当にありがとう」
「何が充分なの?ミスティナ。おれが君を迎えに行くまで、待っていると言ったよね」
「ひ……っ」
「ツカエミヤ。下がっていいわよ」
「い、いけません!地獄耳の魔法が使えるものとして、テイクミー様の代わりにミスティナ様を守るよう、仰せつかっているんです!ミスティナ様に何かあれば……!私が殺されてしまいます……!」

 ツカエミヤはブルブルと震えながら両手を広げ、左右に首を振った。
 二つに結わえたおさげ頭が勢いよく揺れ、殿下に当たってしまわないか心配で堪らない。
 二つに結わえた髪が殿下に当たって、不敬罪を宣言されたら……ツカエミヤの命はないわ……。
 私はツカエミヤを失うわけにはいかない。
 殿下との婚姻は、ツカエミヤの安全と同行が絶対条件よ。
 早めに話をつけておかないと、まずいかもしれないわね……。

「面白いことを言うね。おれがミスティナを加害するわけないよ。おれはこう見えて、この国で二番目に偉い王族だ。君、ミスティナの何?」
「わ、私はミスティナ様をお守りし、すべてを捧げた侍女です……!」
「じゃあ、君もおれの物だね」
「へっ!?」
「ミスティナはおれの物だから、ミスティナの物だって、おれの物になるよね」
「そ、そんな、テイクミー様みたいに……!傲慢なことを言うような方には、ミスティナ様を娶る権利はありません!」
「王命だよ」
「しょ、証拠を見せてください!」

 ツカエミヤが大声を張り上げて威嚇すれば、殿下は困ったように目元を緩めた。

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