ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
「どうかな。星空の女神に相応しいドレスを用意したつもりだけど……」

 星空を思わせるような青を基調としたドレスは、差し色に白や黄色が使われ、天の川を思わせる。
 身体を動かすたびに揺れるドレスはフィッシュテールになっていて、天の川を思わせる柄付き。
 背中はあまり派手でないけれど、星空が服を着て歩いているとしか思えないこのドレスを着て王城内を闊歩していれば、何事かと正気を疑われそうだわ。

「……随分と手が込んでいるわね。社交場では、注目を集めそうだわ」
「普段着だよ」
「……普段着……?」
「うん。ミスティナの美しい姿を、不特定多数に披露するわけがないじゃないか」

 これほど手が込んだなドレスを何着も、数週間で仕立て上げるだけでも正気とは思えないのに……普段着だなんて、もったいなくて着られないわ。
 汚してしまったら大変じゃない。
 私は迷える子羊を救うために、よく変身魔法を使って泥だらけになったりするから……。
 変身魔法を使った時の汚れは、変身魔法を使う前の私にも反映される。
 これほど手が込んだドレスを、何十着も駄目にするわけにはいかないわ。

 ……彼は私がお転婆であることを見抜いて、普段着が手の込んだドレスなら、お淑やかに生活してくれるはずだと考えたんじゃないでしょうね?

「これほど素晴らしいドレスを、普段着としては着られないわ」
「おれがこのドレスを着たミスティナを見たいんだ。侍女を連れてくればよかった。そうしたら、今すぐこのドレスを着たミスティナの姿を見れたのに──」
「ドレスくらい、ツカエミヤが居なくても着られるわ」
「……ドレスは、侍女が着せるものではないの?」
「自分のことは自分でやる。それがカフシーの家訓よ」
「じゃあ……!」

 殿下はキラキラと輝く一番星のような期待を込めた瞳を私に向け、私の動向を覗っている。
 その後に続く言葉は、口にせずともわかるわ。
 言わなきゃよかったかしら。一人でドレスに着替えられると。

「ツカエミヤと従者が城に着くのは、3日後?」
「夜中に馬車を走らせたら、半日で着くよね。準備があるから……顔を合わせるのはもう少し後になるけど」
「半日なら、我慢しなさい」
「侍女が姿を見せたら、このドレスを着た姿をおれに見せてくれる?」
「いいわ。約束を守ってくれたお礼として、身に着けると誓いましょう」

 殿下はクローゼットの扉を閉めると、ベッドの上に移動した。

 
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