ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
 ベッド際のスイッチを押すと、星を象ったライトが淡い光を放つ。
 部屋の電気がすべて消えたら、きっと幻想的な空間になるのでしょうね。
 寝起きする場所に幻想的な光景など、求めていないけれど。

「気に入ってくれてよかった……」
「殿下。まだ明るいわ。ベッドに横たわるのは、早すぎる」
「ミスティナのぬくもりを、確かめたいんだ」

 お兄様と一緒に散々私のぬくもりを確かめておいて、まだ足りないと言うなど想像もつかなかったわ。
 私もまだまだね。

「殿下……」
「ディミオ」
「……ディミオ、殿下……?」
「殿下はいらないよ。おれのことは、ディミオと呼んで欲しい。ミスティナには、そう呼ばれたいんだ」

 沈黙の皇子と呼ばれし第二皇子は、長らく誰とも関わらず、王城で静かに暮らしていた。
 発言を求められても無言を貫くその姿は不気味と称され、より一層恐れられたと聞いたことがある。
 蓋を開けてみれば、沈黙の皇子と呼ばれていた殿下は影武者で、従者が入れ替わっていただけだと言うのだから笑えてくるけれど。

「……私は、ディミオのことを……何も知らないわ」
「おれのこと、知りたい?」

 たいして興味はないけれど。
 妻となる身である以上は、旦那の人となりをある程度把握しておく義務がある。
 私は小さく、控えめに頷いた。

「おれはディミオ。第二皇子としてこの世に生を受けたけど、必要とされたことはなかった」

 ディミオと廃太子は、5歳ほど年の差がある。
 生まれた時から皇帝となるべく育てられた廃太子と、廃太子になにかあった際の保険としてしか利用価値がないディミオの差は歴然だ。

 ディミオがどれほど優秀な頭脳を持っていたとしても、それをひけらかすことは許されなかった。
 彼はずっと孤独に、息を殺して生きてきた。
 彼の理解者は生まれた時からずっと一緒にいる、顔のよく似た従者だけ。
 血の繋がった家族よりも信頼していると言うのだから、それだけディミオの置かれた状況は過酷だったと言うことなのでしょう。

 私は、なんとも言えない気持ちになった。
 アクシーには大っぴらにできない家業があるから、家族の絆はとても固い。
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