ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
 末娘として大事にされてき自覚のある私と、家族に軽んじられてきたディミオがうまくいく未来など見えないのだけれど……。大丈夫、かしら……?

「兄貴が廃嫡子になったことは、聞いているよね」
「ええ」
「おれはものすごいスピードで、皇太子に祀り上げられた。今までおれになんて見向きもしなかった奴らが、皇帝に相応しき教育を受けさせろと騒ぎ立てる。うんざりしたよ。でも、おれが皇太子になれば、星空の女神をおれのものにできるとわかったから──」

 ディミオは、私の為にやりたくないことを頑張ったのだと恩着せがましく私へ告げた。
 私は彼に立派な皇太子になって欲しいと告げてなど、いないのだけれど。
 ディミオが立派な皇太子になることは、国民達が望んでいること。私のお陰でどれほど苦しいことも頑張れると彼が言うのなら、支えてやるのが皇太子妃の役目だわ。

「おれはずっと、アンバーに第二皇子としての役目を押し付けてきた。ミスティナと出会ってからのおれは、毎日楽しそうにしてるって評判なんだ」
「よかったわね」
「うん。ミスティナ。おれの前から、居なくならないで」

 ディミオは私が居なくなったら、何をするか分からないと私に告げた。
 この様子では、職権乱用も(いとわ)わないでしょうね。
 星空の女神に狂わされた悲劇の皇太子と名を馳せる日も、そう遠くはないのかもしれないわ。

「私がどこかに消えていなくなるよりも、ディミオが皇太子としての職務に勤しむ為に私のそばを離れることの方が多そうだけれど」
「おれはできる限りミスティナのそばにいる。心配なんだ。ミスティナが手の届かない所へ行ってしまいそうで……」
「大袈裟ね」

 私はディミオを安心させるような言葉を口にしていたけれど、内心では冷や汗をかいていた。私の作戦が、どこからか露呈している可能性があるわ。
 私がディミオとの婚姻を受け入れたのは、王命だから仕方なくではない。
 ディミオと婚姻しても、努力次第では今まで通りの生活を送っていけると考えたからよ。単独行動を塞がれたら、ツカエミヤを侍女として雇った意味がない。

 どうにか、単独行動をしても許される時間を作らなくちゃ。

「ディミオが皇太子として相応しい教育を受けるように、私も皇太子妃に相応しい教育を受ける必要があるでしょう」
「引き受けて、くれるの……?」
「私はディミオの弱点よ?誰かに加害されることがないよう、完璧なす淑女を目指すのは、当然のことよ。ただでさえ家柄が劣っているんですもの。難癖をつけてくる令嬢は、きっといるでしょうね」
「ミスティナ……。おれは心配だ」
「大丈夫よ。私は、守られるだけのか弱き子羊ではないから」

 私は迷える子羊を追いかけ回し、脱走した子羊に罰を与える羊飼いよ。
 カフシー家の代行業に関連する支店を作るまでは、私を加害しようと暗躍するご令嬢達を追いかけ回すのも、悪くはないかもしれないわね。
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