ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
「……うん」
「皇太子妃としてのマナーを身につけることは、私にとって急務だわ。手はずを整えてくれる?」
「もちろんだよ。とっておきの講師に依頼している。明日にも着てもらおう」
「明日なんて言わず、いますぐに──」
「ミスティナ。みすぼらしい姿で、淑女と顔を合わせてはいけないよ」
「でも……」
「皇太子妃として、相応しいマナーを身につけるんだろう?」
「……ええ、そうね……」

 これは一杯、食わされたわ。

 ディミオは私を目に入れても痛くないほど溺愛しているから、みすぼらしい姿など誰にも見せたくないんでしょうね。
 ディミオが用意した美しいドレスは、ツカエミヤが来るまで着ないと宣言している。
 今日はみすぼらしい姿のまま……満天の星を再現した落ち着きのない部屋で二人きり。
 なるほど、そういうことね。

 前途多難だわ……。

 これからうまく、やっていけるかしら……?

「おれと二人きりで、こうして密着し続けるのは嫌?」

 ディミオは私の耳元を自身の胸元に押し付けると、私に囁いた。
 私はドキドキなどしていないから、高鳴る鼓動は、ディミオの心臓から紡がれる音ね。

 皇太子が、一人の女に誘惑されて心臓をときめかせるなど……いいのかしら……?ディミオはハニートラップには引っかかりやすそうで、心配だわ。
 私が暗殺者だったら、今頃大変なことになっているはずよ。

「……ディミオはこうして二人きりになって、密着するのが好きなんでしょう」
「うん。好きだよ、ミスティナ」
「拒絶したって、意味がないじゃない……」
「愛してる」

 私は密着するのが好きかと聞いているのに、ディミオは私のことなどお構いなく愛の告白をしてくる。たとえ私が愛の告白を返すことがないとしても。
 彼は気持ちを胸の奥に秘め続けることはできず、伝えるだけでも満足するタイプなのね。

 自己完結型ってやつかしら……。私が皇太子妃になる理由が見当たらないのだけれど……。

「無理に言葉を返さなくていいよ。おれが言いたかっただけだから」
「そう……」
「うん。これからも、何度だって伝えるよ。ミスティナに、愛の言葉を」

 私に伝えきれない程の愛を抱くディミオの囁く声を聞きながら、私はゆっくりと目を瞑った。
< 76 / 118 >

この作品をシェア

pagetop