ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
「お初にお目に掛かります。星空の女神様。私は──」
「ロスメル?」

 ディミオを目にした淑女が、(うやうや)しく頭を垂れる。
 その姿を認識した私は、マナー違反であると知りながらも、彼女の名を呟かずには居られなかった。
 彼女の名前はロスメル・アルフォンス。
 廃太子の元婚約者で、公爵令嬢だ。

 ロスメルは皇太子妃となるべく、幼い頃から鍛錬を積んできた。
 陛下からも未来の皇太子妃として期待されていただけに、彼女が私の教育係になるのは当然のことね。

「ミスティナ!?」
「久しぶり、ロスメル。あれから、ご令嬢達にいじめられてない?良縁は見つかった?」
「そ、それほど早く良縁が見つかったら苦労しないわ……。お茶会などは欠席しているから、大丈夫よ。心配してくれてありがとう。ミスティナは……」
「……殿下に捕まってしまって……。ご覧の有様よ」
「まぁ。ミスティナが、星空の女神だったのね。そのドレス、とても似合っているわ」
「ありがとう」

 いい加減おろしてくれないかとディミオの顔を見上げたけれど、彼は頑なに私を手放そうとはしなかった。こ
 れからロスメルから、皇太子妃の教育を受けるのに……。
 まさか、ディミオに抱き上げられたまま、教えを請うわけじゃないわよね?

「ディミオ」
「殿下、恐れながら申し上げます」
「なに」
「私はミスティナが立派な皇太子妃となるよう、教育の為にこちらへ参りました。殿下がミスティナをかわいがっているのは見て取れますが、教育の際までそうして密着されたら、身につくものも身につきませんよ」
「……おれのミスティナを雑に扱ったら……」
「心得ております。ミスティナは私の親友です。雑に扱うなど、ありえませんわ」

 ロスメル……さすがは私の親友ね!
 廃嫡子になった第一王子の件で恩を売ってあるもの。ロスメルはよほどのことがない限り、私を裏切ることなどないわ!

「……30分。それ以上は許せない」
「承知いたしました。実技25分、反省会5分のスケジュールでよろしくて?」
「……ミスティナ……」

 ディミオは私と離れるがどうしても嫌なようで、私を地面に下ろすまで随分と長い間があった。
 その長い間をどうにか微笑み、待ち続けること3分。
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