ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
「本当?」
「ディミオは、公務に専念して」
「……わかった」
「ありがとう。ディミオ。私はあなたのこと、少しだけ見直したわ」
「その調子で、おれのことを好きになってくれることを期待するよ」

 ディミオの雰囲気が、ピリピリとしたものから穏やかなものに変化する。
 どうにか、私の思うがままに話が進んでいるようで何よりだわ。
 この調子で次のステップに移りたい所だけれど──このまま終わるような話であれば、苦労はしないのよね。

「ミスティナ。おれはこれから、君の言う通り皇太子としての公務に専念する」
「ええ。私はこの部屋で、ディミオの活躍をお祈りしているわ」
「おれの代わりにアンバーを控えさせるけど……おれとそっくりだからって、好きになったら駄目だよ」
「ディミオのことだってそれほど興味を抱けないのに、従者を好きになるわけがないでしょう」
「君の自称お兄さんに奪われるか、アンバーに奪われるなら……アンバーに奪われる方が辛いよ」
「そうなの?意外だわ」
「意外かな……。誰だって、自分そっくりな人間に奪われるのは、嫌だと思うけど」

 容姿がそっくりな人間に、愛する人を奪われる可能性なんて、考えたことがないから……わからないわ。私は誰かを愛したことなどないし、変身魔法を使えるもの。
 どちらかと言えば、愛する人を他人から奪う側ね。
 その気になれば、私はいつだってミスティナの名を捨て、他人として行き続けられる。

 今まで考えたこともなかったけれど。ミスティナが死んだと思わせて、別人として逃げ果せることだって不可能ではないのよね。
 いっそのこと、ミスティナとしての人生を早めに終えて、別人に成り代われば──ディミオとは別れて、悠々自適なお一人様生活も夢じゃないわ。
 ああ、でも。ツカエミヤを連れて行くなら、お二人様生活かしら?

「ミスティナ。今、悪巧みしてるね」
「悪巧みなんて、してないわ」
「覚えておいて。おれは、嘘に敏感なんだ。もし、おれが公務に専念している間──ミスティナがおれの前から消えて、いなくなることがあれば──」

 従者は嘘が見抜けるのだと、彼は私に打ち明けてくれたけれど、ディミオが何の魔法を使えるかは、教えて貰ったことがないわね。魔法も、従者と同じものが使えるのかしら……?

 私が疑問に思っていると、彼は満面の笑みを浮かべて恐ろしいことを私に告げた。
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