ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
 ツカエミヤが顔を青くしている時点で、しらばっくれるも何もないのだけれど──ここで素直に認めるのは癪に触る。彼はディミオの影武者だけれど、本来の立場は従者──ディミオ本人でなければ、私の方が立場は上だわ。
 嘘を見抜く魔法が使えるそうだけれど、私は負けないわよ。絶対貴方の目を盗んで、この鳥かごから出ていってやるんだから!

「嘘を見抜くわけではありません」
「嘘……?」

 従者と会話が、成立してない。
 私はわかるように説明しろと問いかけたのよ?嘘の魔法がどうこうって、全然関係ないじゃない。
 従者は顔色を変えることなく、淡々と言葉を紡いだ。

「口に出さずとも、思考している内容がわかります」
「私が戻ってこないディミオのことではなく、別のことを考えているとでも言いたいの?」
「……皇太子妃は、カフシーの家業を続けたがっている。王城を抜け出し、家業を続ける機会を覗っていますよね」

 家業のことまで知っているなんて……。
 やはり、早い段階からと王城を抜け出すべきだったわね。その先に恐ろしい出来事が訪れようとも──行動する前から逃げ道を塞がれるなんて。冗談じゃないわ。

「カフシーの事業を続けたいのでしたら、殿下にご相談ください」
「従者の言葉に、従う理由はないわね」
「殿下は、皇太子妃を心の底から愛しています。愛が憎しみに変化すれば……恐ろしいことが起こる」
「恐ろしいこと?」
「自由を奪われることは、とても悲しいことです。私は、殿下と皇太子妃が悲しむ姿など、見たくありません」

 ディミオと私が悲しむ姿……ね。
 私がディミオに黙って王城を抜け出せは、彼は悲しむでしょう。迷える子羊を救ったあと自らの王城に戻ってくるか、彼が迎えに来た後……口にするのも恐ろしいことが起きるのは、覚悟の上だわ。
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