ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。

皇太子を納得させるまで

 流石は、ディミオが認めた男ね。

 ディミオの従者アンバーは、有能な男だった。
 私が社交場の社会悪をリスト化してほしいと願えば、半日も掛からず資料を集めてきたのだから。
 これを有能と言わなければ、なんと言えば良いのかは想像もつかないわね。神とか、かしら?

「み、ミスティナ様……!」

 リストを上から順に眺めていれば、ツカエミヤが悲鳴をあげながら私を呼んだ。
 リストを手にしたままツカエミヤを見つめれば、唇を震わせながら私に告げる。

「で、殿下が……!」

 ツカエミヤは、地獄耳の魔法が使える。その気になれば、半径1km先の声が聞こえるのよね。
 この慌てっぷりから見て、私の部屋に殿下がやってくると察知したのでしょう。
地獄耳の魔法って、本当に便利ね。私はありがたみを感じながら、従者が用意した社会悪リストを胸元へ小さく折り畳んでしまった。

「ミスティナ」

 出入り口の扉をノックすることすら、惜しむように。当然のように自室へやって来たディミオの顔には、疲弊が色濃く残っている。
 目元にはたくさんの隈があり、少し痩せたようにも見えるその姿に驚いた私は、抱きしめてきたディミオの背中へ手を回し、優しく擦った。

「お疲れ様、ディミオ。あまり眠れていないようね」
「おれにはアンバーとミスティナ以外、信頼できる人がいないからね……。そばを離れたら、気を許せる相手がいないんだ。あれしろ、これするな、早く世継ぎを作れと叫ばれて……疲れた……」

 ディミオは5日間公務に寝る間も惜しみ専念したようで、今にも倒れてしまいそうな程に顔色が悪かった。
 椅子に座っていた私を当然のようにベッドまで運んだ彼は、私を抱きしめ寝転がる。

「ミスティナ。おれと離れていた間……寂しくなかった……?」
「いつも通りだったわ」
「……疲れた旦那を癒やすも、妻の役目だよ」
「私との婚姻条件は、見返りを求めないことのはずだけれど」
「痛い所を付くなぁ……」

 私の唇を物欲しそうに見つめていたディミオが、首筋に視線を集中させた。
 何事かと視線を目で追えば──咄嗟に胸元へリストを折り畳んで胸元へ突っ込んだからでしょうね。
 勢いよくベッドに転がったせいで、胸元から首筋まで折り畳んだ白い紙が飛び出ていることに気づく。
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