ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
 この場でお兄様の話が出てくるということは……それだけディミオにとって、お兄様は脅威なのでしょうね。

「ミスティナは、おれだけの奥さんだよ。誰にも渡さないし、誰にも殺させはしない。死ぬ時だって、ずっと一緒だ」

 ディミオは誰かに、私が奪われることを恐れている。

 死ぬ時だってずっと一緒だと。彼は一方的に私へ約束をしてきたけれど──それは無理な相談だわ。同時に命を落とすなど、よほどの奇跡が起きない限りは難しい。

 奇跡を無理矢理起こす手段が、ないわけではないけれど──私もいつか、もう思い残すことはないと──ディミオと共に、命を終える覚悟を胸に抱くことは……あるのかしら?

「私だって、今すぐ死にたいわけではないわ」
「だったら」
「ディミオは私に、鳥籠の中で飼われる鳥になれと言いたいの?」
「……おれは……」
「私はそんなの嫌よ。王太子妃として、一番の仕事は世継ぎを産むこと。それは当然果たすべき私の義務ではあるけれど、ディミオが公務に勤しんでいる間、私はディミオの無事を祈り、この部屋で静かに暮らせと命じるの?」

 さぁ。ディミオは私に、望んだ言葉を口にしてくれるかしら?

 私が期待を込めてディミオを見つめれば、心を読む魔法を発動していた従者が、何か言いたそうに私を見つめる。
 主で遊ぶなとでも言いたそうね。
 従者へ微笑めば、私の注意を引きたいディミオが耳元で囁いた。

「部屋から出なければ、何をしてもいいよ」

 ディミオなら、望んだ言葉を口にしてくれると思っていたわ。
 私は微笑みを深め、彼に手を伸ばした。

「ありがとう、ディミオ。リストを返してくれないかしら。この部屋にリストに書かれた人物を上から順番に呼び寄せて、お茶会を開きましょう」
「……冗談だよね」
「ディミオの魔法なら、判断がつくはずよ。試してみたら?」

 冗談なわけないじゃない。私は本気で言っているのよ。

 魔法で真偽を確かめたディミオは、目頭を抑えた。

 何を迷う必要があるのか、さっぱり理解できないわ。部屋から出なければ何をしてもいいと許可を出したのはディミオよ。
 部屋から出ることが許されないのならば、悪党共に手紙を送って、一人ずつ部屋へ呼び出すしかないでしょう?

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