ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
 ディミオの光が伴わぬ瞳は徐々に潤み、やがてポタポタと、雫が頬から滴り落ちていく。
 真偽を確かめる魔法の使用は、諦めたのね。得策だわ。
 私はいじめ過ぎたかしらと反省も込めて、彼の頬へ付着した涙を指で拭い取った。

「ディミオは本当に泣き虫ね」
「ミスティナ、おれは……!」
「自分の思い通りにならないからって、すぐ泣く癖は直していかないと。立派な皇帝にはなれないわよ?」
「立派になんて、ならなくてもいいんだ……!おれは、ミスティナの夫で居続ける為に必要な権力さえあれば良い。皇帝にだって、なりたくないんだ。おれは、国を率いるような人間じゃない……」

 あらあら。すっかりネガティブモードになってしまったわね。私は彼の背中へ手を回して優しく擦ると、彼を落ち着かせようと努力してみる。
 ディミオは安心したのか、涙を流しながらとろんとした目になってきた。
 一週間近く満足に寝れず、公務に明け暮れた上で私と言い争いを繰り広げたんですもの。
 疲れやらいいようのない思いが溢れて、限界が来てしまったのも当然のことだわ。

「もういいから、寝なさい」
「まだ話が……」
「疲れているのに、悪かったわね。急いでいるわけではないし、明日の朝ゆっくりと、食事をしながら話し合いを再開すればいいだけよ。そうでしょう?」
「……ミスティナ……。おれの前から、いなくなったりしないよね……」
「ディミオが眠るまで、そばにいるわ」
「……ありがとう。お休み、ミスティナ」

 まるで小さな子どものようね。
 ディミオは私の額に口づけを落とすと、ゆっくりと目を閉じる。数秒もしないうちに吐息が聞こえてくる辺り、相当疲れていたんでしょう。

 疲れて正常な判断が出来ない中、無理をさせてしまったかしら。私は少しだけ反省した。

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