片親だからと婚約破棄をされましたが、『聖女の目』を持つ私を10歳の若さで見限るとは愚かですね
2話
「お前みたいな片親と、ケッコンしたくない! こんやくはきだ!」
「ルーレン様!?」
――あれから四年。
今日はローディフェ王国の第一王子ルーレン殿下の十歳のお誕生日。
それを祝うお茶会の場で、わたしは未だかつてないほどにおめかしさせられ、婚約してからというものお城に軟禁状態で叩き込まれた淑女教育のお披露目とばかりになにひとつミスのないご挨拶と笑顔と言葉使いと所作で頑張った。
なのに、王子ルーレンはそんなわたしの頭にお茶を被せ、意地悪い笑みを浮かべてそう言い放った。
は? ぶん殴っても許されない? コレ。ねえ?
「ルーレン、それは無理です。エリサラ嬢は薄紅色の髪と金の瞳。これは五片聖女様のお一人であるというなによりもの証明です。そんなことよりも紳士として、いいえ、人としてお茶を頭に被せるなど言語道断! 今すぐ謝罪なさいませ!」
「うるさい! こんな片親とケッコンするなんていーやーだー!」
「そうよ、マリア。エリサラ嬢も別段怪我をした様子もないし、片親の娘を聖女の生まれ変わりだなんていって無理にルーレンと婚約させるのもおかしいと思うわ。古臭いし、そういう伝統みたいなのはやめるべきよ」
「ッ!!」
怒りに打ち震えるマリア先生を見上げて、わたしの頭に慌ててタオルを巻いたりドレスを拭いたりして「すぐにお部屋でドレスを脱ぎましょう」と声をかけてくるメイドたちを見回す。
その様子を見て、大変なことになっているらしい、と他人事のように思った。
お父様やお兄ちゃんたちと引き離されてお城で軟禁生活をすること四年、わたしを厳しくも大切にしてくれた人たちが狼狽している。
そして、そう大事にされてきたわたしにとって、こんな明確な悪意は初めてだった。
同じく王子の誕生日を祝うため、お茶会に招かれていた同年代の令息令嬢は表情を引きつらせてドン引きしている。
令嬢の中には、ルーレン王子の第二妃、第三妃を狙って親まで付き添っていたのに。
わたしとの結婚を未だに「いやだ! いーやーだ!」と暴れていやがるルーレン王子と、その王子の味方をする王妃様。
マリア先生がメイドに指示をして、わたしを抱いて部屋に戻る。
「脱がしますよ。すぐに桶とタオルを。熱い、痛い場所はありますか?」
「ないです」
「火傷にはなっていないようですが、まったくとんでもないことを……! 王子殿下の教育係はなにをしているのでしょうか……!」
「マリア先生」
「なんですか」
マリア先生と、五人のメイドがわたしの体を冷たいタオルで拭く。
体はどこも痛くないし、火傷にはなっていないけれど――。
「わたしを命懸けで産んでくださったお母様、わたしを愛情深く育ててくださったお父様を侮辱したあの方に嫁ぎたくなどございません。わたしを家に、帰してください……!」
「ッ……」