役目を終えた悪役令嬢
「アナスタシア学院の入学規定では、十六歳で入学して十八歳で卒業することが基本とされています。ですから、さすがにもう一度学院生活を送ることはできませんね」
「ですよね……」
「ですがこれは、貴族科の場合のみ。平民科の場合はあらゆる規定が緩くなります」
いつの間にか顔を伏せていた私がさっとセドリックの方を見ると、彼は私の視線を受けて微笑んだ。
「では、こうしませんか? まず、私たちは仮の婚約を結びます」
「仮の、ですか?」
「はい。お試し期間、とでも言いましょうか。あなたのことは、我がシャーウッド侯爵家がお引き受けします。屋敷に使用人はいますが、私の所有であるため家族がいないので、あなたも気を遣うことなく過ごせるでしょう。あなたはそこで私の婚約者としてのお試し期間を過ごすという建前にして、平民の少女としてもう一度アナスタシア学院に通うのです」
「まあ。そんなことができるのですか?」
「できるようにします。愛するあなたのためですから」
こっちは至って真剣なのにいきなりそんなキザな台詞とウインクを飛ばしてくるから、心臓に悪い。色男のウインクは、破壊力がすさまじい……!
思わずぎょっとした私を見ておかしそうに微笑み、セドリックは右手の人差し指を立てた。
「あなたは十八歳の上級生として編入し、一年間だけ学院生活をやり直します。身分は……そうですね。シャーウッド侯爵家の遠い親戚の娘、くらいにしましょうか。これから嫁ぐ予定のある娘の花嫁修業のために一年間だけ在学する平民の女子生徒は、結構いるみたいですからね。怪しまれることもないでしょう」
「なるほど。ですがそれでは、セドリック様をはじめとするシャーウッド侯爵家の皆様にご迷惑をおかけすることになるかもしれません。それに、わたくしには財産がないので学費を捻出するのも難しそうで……」
「なにをおっしゃいますか。学費なら、私が支払いますよ」
「え」
あまりにもあっさり言われたけれど、それはさすがにダメだ。
「なりません! わたくしの身勝手のためのお金を、あなたが支払うだなんて……」
「なぜですか?」
「えっ?」
「私には、愛する人を部屋に閉じ込めて自分だけのものにしたい、なんて願望はありません。好きな人のおねだりなら金に糸目をつけずになんでも叶えてあげたいし、いずれ私のもとに嫁いでくれるのなら、それまでに自由な時間を過ごしてほしいと思うのです。あなたの笑顔を見られるのですから、迷惑どころか役得なくらいです」
そう言って微笑むセドリックからは、色気がダダ漏れだ。おかしいな。『クロ愛』のお色気担当は宰相の息子だったはずだけど……?
フェロモンを出しまくるセドリックを直視できなくてあっちこっちに視線を泳がせていると、彼はくすりと笑った。
「ふふ。なんでもない風を装ってらっしゃいますが、頬が赤く染まっていますよ」
「き、気付いてもそういうことはわざわざ言わないでください」
「おや、失礼しました。それで? 私からの提案は受けてもらえますか?」
セドリックが、微笑みを絶やさぬままたたみかけてきた。
「ですよね……」
「ですがこれは、貴族科の場合のみ。平民科の場合はあらゆる規定が緩くなります」
いつの間にか顔を伏せていた私がさっとセドリックの方を見ると、彼は私の視線を受けて微笑んだ。
「では、こうしませんか? まず、私たちは仮の婚約を結びます」
「仮の、ですか?」
「はい。お試し期間、とでも言いましょうか。あなたのことは、我がシャーウッド侯爵家がお引き受けします。屋敷に使用人はいますが、私の所有であるため家族がいないので、あなたも気を遣うことなく過ごせるでしょう。あなたはそこで私の婚約者としてのお試し期間を過ごすという建前にして、平民の少女としてもう一度アナスタシア学院に通うのです」
「まあ。そんなことができるのですか?」
「できるようにします。愛するあなたのためですから」
こっちは至って真剣なのにいきなりそんなキザな台詞とウインクを飛ばしてくるから、心臓に悪い。色男のウインクは、破壊力がすさまじい……!
思わずぎょっとした私を見ておかしそうに微笑み、セドリックは右手の人差し指を立てた。
「あなたは十八歳の上級生として編入し、一年間だけ学院生活をやり直します。身分は……そうですね。シャーウッド侯爵家の遠い親戚の娘、くらいにしましょうか。これから嫁ぐ予定のある娘の花嫁修業のために一年間だけ在学する平民の女子生徒は、結構いるみたいですからね。怪しまれることもないでしょう」
「なるほど。ですがそれでは、セドリック様をはじめとするシャーウッド侯爵家の皆様にご迷惑をおかけすることになるかもしれません。それに、わたくしには財産がないので学費を捻出するのも難しそうで……」
「なにをおっしゃいますか。学費なら、私が支払いますよ」
「え」
あまりにもあっさり言われたけれど、それはさすがにダメだ。
「なりません! わたくしの身勝手のためのお金を、あなたが支払うだなんて……」
「なぜですか?」
「えっ?」
「私には、愛する人を部屋に閉じ込めて自分だけのものにしたい、なんて願望はありません。好きな人のおねだりなら金に糸目をつけずになんでも叶えてあげたいし、いずれ私のもとに嫁いでくれるのなら、それまでに自由な時間を過ごしてほしいと思うのです。あなたの笑顔を見られるのですから、迷惑どころか役得なくらいです」
そう言って微笑むセドリックからは、色気がダダ漏れだ。おかしいな。『クロ愛』のお色気担当は宰相の息子だったはずだけど……?
フェロモンを出しまくるセドリックを直視できなくてあっちこっちに視線を泳がせていると、彼はくすりと笑った。
「ふふ。なんでもない風を装ってらっしゃいますが、頬が赤く染まっていますよ」
「き、気付いてもそういうことはわざわざ言わないでください」
「おや、失礼しました。それで? 私からの提案は受けてもらえますか?」
セドリックが、微笑みを絶やさぬままたたみかけてきた。