役目を終えた悪役令嬢
正直、彼の提案はおいしい。むちゃくちゃおいしい。ひとまず学費や生活費のことなどを気にせずにやりたいことができるなんて、夢のような話だ。
それにもしかしたら、一年間私を近くで見ていてセドリックは「やっぱりこいつとの婚約はやめた」って言い出すかもしれない。私はこれまで被っていた淑女の仮面を脱ぎ捨て、セドリックの前では雑に振る舞う。これまで抱いていた完璧な淑女像からかけ離れた私を見て、彼は婚約を取り消してくれるのではないか。
彼も言ったように“仮”の婚約なら、結婚までに頓挫してもそれほど悪くは言われないはず。そうしてセドリックの方から破棄してくれたなら彼の名誉を汚すこともないし、その後はニコラスに相談して隠居生活でも送ればいい。
お金のこともここではひとまずセドリックの申し出を受けておいて、婚約を解消された後で返済を進めよう。ニコラスなら、私にでもできる仕事を斡旋してくれるかもしれない。
「セドリック様」
「はい」
「そのお話、是非とも進めていただけませんか?」
私が身を乗り出してお願いすると、セドリックは少しきょとんとした後に小さく噴き出した。
「ふふ。そのご様子だと、私の愛に応えてくれたから話を進める、というわけではなさそうですね」
「正直に申し上げますと、今の段階ではあなたの愛を受け入れることは難しいです」
不敬になるだろうか、と思いつつも誤解されないためにはっきり言うと、セドリックはますます笑みを深くした。最初はイケメンの笑顔に見入ってしまったけれど、今はこの笑顔が妙にうさんくさく感じられるのはなぜだろうか。
「ええ、それも当然のことです。私としても、一年間で私を受け入れてもらえるようになるのならば嬉しい限りですからね」
なるほど。ゲーム風に言うと、私にとってこの一年間は「セドリックからの愛情度を下げる期間」であるけれど、彼からすると逆に「自分への愛情度を上げる期間」になる、ということか。十分すぎるくらいだ。
「ありがとうございます、セドリック様。……本来ならばわたくしは我が儘を言える立場ではありませんのに、セドリック様には感謝の言葉しかございません」
「なにをおっしゃいますか。好きな女性のために尽くすのは、男として当然のこと。無理やり手に入れても、あなたは悲しい顔をするだけでしょう。あなたに嫁ぎたいと心から思ってもらえるように、私も努力しますね」
そう言って、惜しみなくきらきらの笑みを振りまくセドリック。
現実の恋愛とゲームの攻略対象への入れ込みは、別物だと思っている。それでも、セドリックがイケメンで優しいのは事実だから、どうにも心臓が高鳴ってしまう。
……いや、ここでキュンキュンしてはならない!
セドリックは本来、エミリの恋人候補だった。品行方正な優等生である彼が悪役令嬢だった私を見初めるなんて、信じられない。なにか裏があるのでは、と思う方が自然だろう。
だから私は、この与えられた一年間の猶予を使い、学院生活を満喫しながら、セドリックの方から婚約の話を撤回してくれるように頑張ることにした。
それにもしかしたら、一年間私を近くで見ていてセドリックは「やっぱりこいつとの婚約はやめた」って言い出すかもしれない。私はこれまで被っていた淑女の仮面を脱ぎ捨て、セドリックの前では雑に振る舞う。これまで抱いていた完璧な淑女像からかけ離れた私を見て、彼は婚約を取り消してくれるのではないか。
彼も言ったように“仮”の婚約なら、結婚までに頓挫してもそれほど悪くは言われないはず。そうしてセドリックの方から破棄してくれたなら彼の名誉を汚すこともないし、その後はニコラスに相談して隠居生活でも送ればいい。
お金のこともここではひとまずセドリックの申し出を受けておいて、婚約を解消された後で返済を進めよう。ニコラスなら、私にでもできる仕事を斡旋してくれるかもしれない。
「セドリック様」
「はい」
「そのお話、是非とも進めていただけませんか?」
私が身を乗り出してお願いすると、セドリックは少しきょとんとした後に小さく噴き出した。
「ふふ。そのご様子だと、私の愛に応えてくれたから話を進める、というわけではなさそうですね」
「正直に申し上げますと、今の段階ではあなたの愛を受け入れることは難しいです」
不敬になるだろうか、と思いつつも誤解されないためにはっきり言うと、セドリックはますます笑みを深くした。最初はイケメンの笑顔に見入ってしまったけれど、今はこの笑顔が妙にうさんくさく感じられるのはなぜだろうか。
「ええ、それも当然のことです。私としても、一年間で私を受け入れてもらえるようになるのならば嬉しい限りですからね」
なるほど。ゲーム風に言うと、私にとってこの一年間は「セドリックからの愛情度を下げる期間」であるけれど、彼からすると逆に「自分への愛情度を上げる期間」になる、ということか。十分すぎるくらいだ。
「ありがとうございます、セドリック様。……本来ならばわたくしは我が儘を言える立場ではありませんのに、セドリック様には感謝の言葉しかございません」
「なにをおっしゃいますか。好きな女性のために尽くすのは、男として当然のこと。無理やり手に入れても、あなたは悲しい顔をするだけでしょう。あなたに嫁ぎたいと心から思ってもらえるように、私も努力しますね」
そう言って、惜しみなくきらきらの笑みを振りまくセドリック。
現実の恋愛とゲームの攻略対象への入れ込みは、別物だと思っている。それでも、セドリックがイケメンで優しいのは事実だから、どうにも心臓が高鳴ってしまう。
……いや、ここでキュンキュンしてはならない!
セドリックは本来、エミリの恋人候補だった。品行方正な優等生である彼が悪役令嬢だった私を見初めるなんて、信じられない。なにか裏があるのでは、と思う方が自然だろう。
だから私は、この与えられた一年間の猶予を使い、学院生活を満喫しながら、セドリックの方から婚約の話を撤回してくれるように頑張ることにした。