役目を終えた悪役令嬢
一章 婚約破棄からの婚約
「……嘘よ。なんで、デルフィーナに転生しているわけ!?」
ベッドに座り込んで手鏡を覗き込んでいるのは、豊かな赤茶色の髪を持つ美少女。名前は、デルフィーナ・ケンドール。ゲーム『クローバーに愛を』に登場する悪役令嬢。年齢八歳。つまり、私である。
私はかつて、日本という国で雑貨屋の店員として暮らしていた。そしてあの日、困った客の対応にもめげず鉄壁の営業スマイルでなんとか一日を乗り切り、『クロ愛』リメイク版を購入した――と思ったら、歩道に突っ込んできた車に轢かれて死んだ、ようだ。詳しいことは覚えていない。
気が付いたら、『クロ愛』のライバルキャラに転生していたのだった。
「え、ええと、ええと。メモ、メモしないと……」
つい前世の癖でスラックスのポケットに手を伸ばしたけれど、ネグリジェ姿なのでそんなものはない。急いでベッドから下りて、デスクに向かった。まだ朝早い時間でメイドたちも起こしに来ないはずだから、今のうちに覚えている情報を書き出しておこう。
『クローバーに愛を』の主人公のデフォルトネームは、エミリ。元は平民だったけれど、かつて断絶したとされる貴族の末裔だったことが判明し、淑女としての教育を受けるために十歳の時にコーネル男爵家に引き取られて、養女になる。そして十六歳になった春に、ローレン王国の名門校であるアナスタシア学院に入学するところからストーリーは始まる。
アナスタシア学院は二年制で、学年ごとに身分と性別によって分けられた四つのクラスがある。貴族と平民が同じ学院で学ぶのってどうなの、と思うけれど、ゲームの設定だから仕方がない。
攻略対象となるキャラは、六人。王子、宰相の息子、騎士団長の息子、主人公の義弟、主人公専属の執事、隣国の皇子という王道の面子だ。
そしてゲームの中でライバルキャラとして立ちはだかるのが、悪役令嬢であるデルフィーナ・ケンドール。伯爵令嬢という身分の彼女だけど、実家は汚職に手を染めていたし本人は意地悪ばかりしてくるしで、卒業パーティーのイベントで断罪されてしまう。
「そういえばうちのお父様、なんかヤバいことに手を染めているっぽい?」
ただの女児だった頃にはわからなかったけれど、今思えば今世の父であるケンドール伯爵は、なにやら怪しげな連中とつるんだりやたら高価なものばかり買ったりしている。かつて二十代後半まで生きた記憶と経験からして、伯爵が汚職事件に絡むというのは間違いなさそうだ。
ついペンを握る手に力が入ってしまって、メリッ、とペンがか細い悲鳴をあげた。
ゲームでのデルフィーナは、主人公がどの攻略対象のルートを選んでも伯爵令嬢という身分を剥奪され、当然王子からも婚約破棄されてしまう。その後のことはナレーションでちらっと語られた程度だったと思うけれど、ろくな人生は歩めなかったと思う。
一度目の人生では待ちに待った『クロ愛』リメイク版をプレイできずに終わり、二度目の人生も断罪エンドなんて、絶対に嫌!
「なんといっても、断罪エンド回避! そして、まったり生活を送る!」
その言葉を、ノートにでかでかと記す。
ゲームのデルフィーナのように断罪の後に追放されるのも、前世のように若くして事故死するのも、絶対に嫌だ。
私はベッドの上で天寿を全うするために、悪役ルートから逃れてみせる!
ベッドに座り込んで手鏡を覗き込んでいるのは、豊かな赤茶色の髪を持つ美少女。名前は、デルフィーナ・ケンドール。ゲーム『クローバーに愛を』に登場する悪役令嬢。年齢八歳。つまり、私である。
私はかつて、日本という国で雑貨屋の店員として暮らしていた。そしてあの日、困った客の対応にもめげず鉄壁の営業スマイルでなんとか一日を乗り切り、『クロ愛』リメイク版を購入した――と思ったら、歩道に突っ込んできた車に轢かれて死んだ、ようだ。詳しいことは覚えていない。
気が付いたら、『クロ愛』のライバルキャラに転生していたのだった。
「え、ええと、ええと。メモ、メモしないと……」
つい前世の癖でスラックスのポケットに手を伸ばしたけれど、ネグリジェ姿なのでそんなものはない。急いでベッドから下りて、デスクに向かった。まだ朝早い時間でメイドたちも起こしに来ないはずだから、今のうちに覚えている情報を書き出しておこう。
『クローバーに愛を』の主人公のデフォルトネームは、エミリ。元は平民だったけれど、かつて断絶したとされる貴族の末裔だったことが判明し、淑女としての教育を受けるために十歳の時にコーネル男爵家に引き取られて、養女になる。そして十六歳になった春に、ローレン王国の名門校であるアナスタシア学院に入学するところからストーリーは始まる。
アナスタシア学院は二年制で、学年ごとに身分と性別によって分けられた四つのクラスがある。貴族と平民が同じ学院で学ぶのってどうなの、と思うけれど、ゲームの設定だから仕方がない。
攻略対象となるキャラは、六人。王子、宰相の息子、騎士団長の息子、主人公の義弟、主人公専属の執事、隣国の皇子という王道の面子だ。
そしてゲームの中でライバルキャラとして立ちはだかるのが、悪役令嬢であるデルフィーナ・ケンドール。伯爵令嬢という身分の彼女だけど、実家は汚職に手を染めていたし本人は意地悪ばかりしてくるしで、卒業パーティーのイベントで断罪されてしまう。
「そういえばうちのお父様、なんかヤバいことに手を染めているっぽい?」
ただの女児だった頃にはわからなかったけれど、今思えば今世の父であるケンドール伯爵は、なにやら怪しげな連中とつるんだりやたら高価なものばかり買ったりしている。かつて二十代後半まで生きた記憶と経験からして、伯爵が汚職事件に絡むというのは間違いなさそうだ。
ついペンを握る手に力が入ってしまって、メリッ、とペンがか細い悲鳴をあげた。
ゲームでのデルフィーナは、主人公がどの攻略対象のルートを選んでも伯爵令嬢という身分を剥奪され、当然王子からも婚約破棄されてしまう。その後のことはナレーションでちらっと語られた程度だったと思うけれど、ろくな人生は歩めなかったと思う。
一度目の人生では待ちに待った『クロ愛』リメイク版をプレイできずに終わり、二度目の人生も断罪エンドなんて、絶対に嫌!
「なんといっても、断罪エンド回避! そして、まったり生活を送る!」
その言葉を、ノートにでかでかと記す。
ゲームのデルフィーナのように断罪の後に追放されるのも、前世のように若くして事故死するのも、絶対に嫌だ。
私はベッドの上で天寿を全うするために、悪役ルートから逃れてみせる!