役目を終えた悪役令嬢
かくして前世の記憶を手にした私ことデルフィーナは、努力した。
まずは我が儘な性格を改善して、他人に優しく接するようにする。ゲームのデルフィーナはいかにもお高くとまった高慢ちきで嫌な女、って感じのキャラだった。でもいずれ現れる主人公と仲良くしたいし、断罪エンドから少しでも遠ざかれるようにしたい。
そして同時に父を汚職から助け出そうとしたけれど、これはうまくいかなかった。父は家族より仕事という人間で、自分がのし上がるためなら手段を選ばない人だった。娘と第一王子ニコラスの婚約を早々に取りつけるとあとは娘を顧みることはなく、政敵を排除し平民から平気で搾取するような人間になってしまった。
私は、父に忠告した。でも、父は「子どもは黙っていろ」と冷たく言うだけで、私の言葉に耳を傾けてくれなかった。デルフィーナを悪役令嬢に仕立て上げた諸悪の根源は、この父親なのではないかと思われる。
何度忠告してお願いしてもうるさそうににらまれるだけだから、私は父の説得を諦めた。ずっと前に妻を亡くしたショックで悪道に堕ちたということらしいけれど、更生の機会を踏み潰したのは父自身だ。
また私は第一王子ニコラスの婚約者として、当たり障りのないように振る舞った。私たちは、十歳の時に婚約した。ニコラスはもともとこの婚約を快く思っていなかったから最初、私に対する態度はきつかった。でも私が性格を改善し始めたことで彼も少しずつ態度を軟化させ、十六歳で学院に入学する頃にはぽんぽんと気さくに言葉を交わせる仲になっていた。
ちなみにこのゲーム、キャラの見た目と中身のギャップが激しい。第一王子ニコラスは品行方正な正統派王子様――ではなくて宰相キャラに多そうな黒髪インテリ嫌み眼鏡キャラだ。そして宰相の息子は、弟キャラに多そうな小悪魔系。騎士団長の息子は正統派王子様系と、あえて身分と見た目のイメージの組み合わせをごちゃ混ぜにしている。だが、そこがいい。
そういうことで、父親の悪事をつまびらかにするための準備をニコラスと一緒に進めつつ、学院の下級生として入学してきたゲーム主人公であるエミリとも仲良くして、学校活動や授業でも手を抜かず……という膨大なタスクをこなして、ついに!
卒業式の約半月前に、私とニコラスはケンドール伯爵家の罪を明らかにした。その時になって父は真っ青になり、私をにらんで「親不孝者が……!」「おまえも道連れにしてやる!」と吠えてきたけれど、私は既にニコラスの信頼を得ていた。兵士たちに連れていかれる父を見送っても、まったく同情は湧いてこないし報復が怖いとも思わなかった。
そして迎えた、卒業パーティー。ニコラスから婚約破棄を言い渡されるこのイベントにて、私は婚約解消という穏やかな形でニコラスとの婚約関係を終わらせることができたのだった。