役目を終えた悪役令嬢
つい、元伯爵令嬢あるまじき声をあげてしまった。
美貌の貴公子が、没落令嬢に求婚した。それも、『ずっとお慕い申し上げておりました』という熱烈な告白付きで。
……なんで?
呆然とする私をよそに、エミリが「きゃーっ!」と黄色い声をあげた。彼女はニコラスの腕を掴んでがくがく揺さぶり、「殿下! これってどういうことなのでしょうか!?」と大興奮である。
恋人にシェイクされるニコラスは最初こそぽかんとしていたけれど、やがて「なんだ。そういうことなら、もっと早く言ってくれればよかったのに」となぜか納得したように頷いた。
「セドリック。君はいつから、デルフィーナのことを好いていたんだ?」
「僭越ながら、デルフィーナ嬢が殿下の婚約者であった二年ほど前からでございます。臣下の身でありながらこのような浅ましい想いを抱いていたこと、心からお詫びいたします。罰ならばどうか、この私ひとりにお与えください」
「やめろ。私は君を罰するつもりはないし、学院入学よりも前からいずれデルフィーナとは婚約解消をすると約束していた。彼女のことは、大切な友人だと思っている。デルフィーナに想いを寄せていたことで、君を責めようとは思わない」
ニコラスはそう言ってから、ちらっと私の方に視線を寄越して微笑んだ。
「……驚いたな。君、問題が解決したら田舎暮らしをしたいとか言っていたが、私の気付かぬところでセドリックの心を掴んでいたようだな。ああ、大丈夫だ。彼は、非常に頼りになるいい男だ。私が保証する」
「…………」
……え? 既にニコラス、私がセドリックの求婚を受ける前提で話を進めていない?
いや、よく見ると周りの人々も興奮したようにこっちを見ているし、「まあ、素敵!」「セドリック様が元伯爵令嬢を見初めるなんて、ロマンチック!」という声すら聞こえる。私以外の人間のほとんどが、セドリックを応援しているようだ。
「わぁ、素敵な話ですね! デルフィーナ様がセドリック様と結婚されたら私、これからもデルフィーナ様と一緒にいられますね!」
エミリでさえ、頬を赤く染めてうっとりと言っている。確かに、次期護衛騎士団長の妻と王妃なら、一緒にいることもできるけれど……いや、待って!
「あ、あの、セドリック様!」
「うん、なにかな?」
「場所を移動しましょう」
ひとまずこの公衆の面前から脱出しましょうね!
私の言葉に、目を瞬かせたセドリックはふわりと笑った。
「……なるほど。照れて恥じらうあなたのかわいらしい顔を多くの人に見せるのは、私としても不満ですからね」
そうじゃない。言いたいのはそういうことじゃないけれど、ここから脱出できるのならもうなんでもいい。
私とセドリックはニコラスたちにこの場を任せ、ホールから退出することにした。だって今は、卒業式のパーティー中だし。皆様、大変お騒がせしました!
なんだか、「ええっ、返事が聞きたかったのに」「続きが気になるなぁ」なんて声も聞こえるけれど、無視、無視!
すれ違いざまにニコラスが「いい返事を期待している」とにやりと笑って言ってきたのにも、聞こえないふりをしておいた。
美貌の貴公子が、没落令嬢に求婚した。それも、『ずっとお慕い申し上げておりました』という熱烈な告白付きで。
……なんで?
呆然とする私をよそに、エミリが「きゃーっ!」と黄色い声をあげた。彼女はニコラスの腕を掴んでがくがく揺さぶり、「殿下! これってどういうことなのでしょうか!?」と大興奮である。
恋人にシェイクされるニコラスは最初こそぽかんとしていたけれど、やがて「なんだ。そういうことなら、もっと早く言ってくれればよかったのに」となぜか納得したように頷いた。
「セドリック。君はいつから、デルフィーナのことを好いていたんだ?」
「僭越ながら、デルフィーナ嬢が殿下の婚約者であった二年ほど前からでございます。臣下の身でありながらこのような浅ましい想いを抱いていたこと、心からお詫びいたします。罰ならばどうか、この私ひとりにお与えください」
「やめろ。私は君を罰するつもりはないし、学院入学よりも前からいずれデルフィーナとは婚約解消をすると約束していた。彼女のことは、大切な友人だと思っている。デルフィーナに想いを寄せていたことで、君を責めようとは思わない」
ニコラスはそう言ってから、ちらっと私の方に視線を寄越して微笑んだ。
「……驚いたな。君、問題が解決したら田舎暮らしをしたいとか言っていたが、私の気付かぬところでセドリックの心を掴んでいたようだな。ああ、大丈夫だ。彼は、非常に頼りになるいい男だ。私が保証する」
「…………」
……え? 既にニコラス、私がセドリックの求婚を受ける前提で話を進めていない?
いや、よく見ると周りの人々も興奮したようにこっちを見ているし、「まあ、素敵!」「セドリック様が元伯爵令嬢を見初めるなんて、ロマンチック!」という声すら聞こえる。私以外の人間のほとんどが、セドリックを応援しているようだ。
「わぁ、素敵な話ですね! デルフィーナ様がセドリック様と結婚されたら私、これからもデルフィーナ様と一緒にいられますね!」
エミリでさえ、頬を赤く染めてうっとりと言っている。確かに、次期護衛騎士団長の妻と王妃なら、一緒にいることもできるけれど……いや、待って!
「あ、あの、セドリック様!」
「うん、なにかな?」
「場所を移動しましょう」
ひとまずこの公衆の面前から脱出しましょうね!
私の言葉に、目を瞬かせたセドリックはふわりと笑った。
「……なるほど。照れて恥じらうあなたのかわいらしい顔を多くの人に見せるのは、私としても不満ですからね」
そうじゃない。言いたいのはそういうことじゃないけれど、ここから脱出できるのならもうなんでもいい。
私とセドリックはニコラスたちにこの場を任せ、ホールから退出することにした。だって今は、卒業式のパーティー中だし。皆様、大変お騒がせしました!
なんだか、「ええっ、返事が聞きたかったのに」「続きが気になるなぁ」なんて声も聞こえるけれど、無視、無視!
すれ違いざまにニコラスが「いい返事を期待している」とにやりと笑って言ってきたのにも、聞こえないふりをしておいた。