相思相愛・夫婦の日常~カケ♡サト編~
「━━━━き、来てしまった……」

里海は今、翔琉のいるホテルの前にいる。

「…………
私、何やってるんだろ……」

翔琉に連絡して“少しだけ顔を見せて”と言おうか。
(いやいや、別に会えないわけじゃないし……
おとなしく、家で待ってよう……)

しかし、ホテル前にいたドアマンに声をかけられてしまう。
「いらっしゃいませ。
お客様、ご宿泊ですか?」

「へ?あ、いや、あの…」
(ど、どうしよう……)

またそこに、里海を呼ぶ声がした。

「あれ?ナツ…ミちゃん?」

「え?
━━━━━あ!慶治(けいじ)くん!?」

「うん!久しぶりだね!」

「うん!久しぶり!
元気?」

「元気だよ!ナツミちゃんも、元気…いや、なんかあった?」

「え?」

「だって悲しそうだよ?」

「え………」

相変わらず、よく見てるなぁと思う。


慶治は、里海の高校生の時の彼。
凌央に傷つけられた里海を慰め、癒してくれたのが彼だった。
凌央と別れて、半年後に慶治と付き合いだしたのだ。

慶治は里海ことを“ナツミちゃん”と呼び、いつも微笑んでいるような穏やかな男。

特にイケメンというわけでも、何かに優れているわけでもない。
しかし友達が多く、誰にでも分け隔てなく接する心優しい男。
そしてよく相手を見ていて、なぜか慶治には心の中が見透かされたようにバレるのだ。


慶治に自宅に送ってもらいながら、話をする里海。

「そっか!それで、旦那さんに会いに来たんだ?」
「一目でも見れたら、気持ちが落ちつくかなって……
でも、思い直したの。
やっぱ、さすがにウザいよねって思って」

「うーん…難しいね…」
「慶治くんだったら……って…慶治くんでも“ウザい”って思うよね(笑)」

「そうだなぁ。
半分ウザい、半分嬉しい!」

「えー(笑)何それー」

「だって、友達との時間も大事だし。
だからって、会いに来てくれたらやっぱ嬉しい!」

「そっか」

「でも、ほんと幸せそうで良かった!
ナツミちゃんは、辛いことばっかだったから…」

「あー(笑)そうだね(笑)」

「僕ね。
ずっと、気になってて……
何度も連絡しようと思ってたんだ。
でも、僕が振ったのに連絡するのはそれこそウザいかなって思って…」

高校卒業と同時に、慶治が里海に別れを告げた。
慶治には医者になる夢があり、それを目指すためだ。

「そっか…
どう?勉強は」

「うーん…大変!
でも、ナツミちゃんを振ってまでなりたいんだもん!
頑張るよ!!」

拳を握る慶治に、里海も満面の笑みで“頑張れ!”と言った。
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