紳士な若頭の危険な狂愛

「家族が待っているんでしょう?
安心させるためにも泊まらずに帰った方が良い」

「いえ、家族はいません。
父は亡くなりましたし、母も小さいときに家を出て生きているのかわかりませんが。
気ままな一人暮らし、誰も心配する人はいませんので大丈夫なんです」

つい自虐が入ってしまった。
彼の目を見るのが怖くて視線をそらす。

「では、こうしましょう。
私が心配するから帰って欲しい、綾菜」

はじかれるように彼を見た。
突然呼ばれた私の名前。
彼はそんな私の表情を見て微笑んでいる。

「心配しているのは本当です。
帰りなさい、貴方のいるべき明るい世界へ」

この路地を出れば、夜でも明るい道路に出られる。
彼は綺麗な顔に格好いいスーツを着ているはずが、この薄暗い闇に溶け込んでいた。

まだ話したい。彼といたい。

その欲求を抑え込み、私は笑顔を作った。

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