紳士な若頭の危険な狂愛
「別にたいした傷じゃ無いですよ」
「でも」
「美東さん、車どうしますか?」
スーツを着た男性が階段を下りてきて美東さんに尋ねる。
「彼女を自宅に送ってください」
「待ってください、美東さんの傷の手当てが先です!」
私が彼の前に回り込んで言うと、彼は眉尻を下げた。
「明日病院へ行きますから」
「ではすぐ行きましょう」
「まだここの処理が終わっていませんので」
「じゃー美東さん家で、お嬢さんに手当てしてもらったらどうですか?
あそこなら安全ですし、それなりの道具もあるでしょ」
頭の後ろで手を組んでいる若い男性が、明るい声で言う。
彼は私に手を振った、美東さんと出会った時にいた人だ。
「君ね」
「ここのとこ忙しくて寝てないんだし少し休んだ方が良いっすよ。
お嬢さん送るときは声かけてもらえば飛んでいくんで。
はい、決定!」
手を叩いた彼に、周囲の男性たちも苦笑いしている。
どうやらムードメーカーなのか、誰も彼をとがめない。
美東さんが忙しかったことを皆さん心配しているのだろう。
それに、会いたかった美東さんとまだ一緒にいられる。
そのチャンスを逃したくは無かった。
「家までついて行きます!
せめてものお詫びに、傷の手当てを私にさせてください!」
頭を深く下げると、小さなため息が聞こえた。
「わかりました、お願いします」
顔を上げて見えた美東さんの困ったような表情が、ちょっぴり可愛かった。