紳士な若頭の危険な狂愛
「一谷さん」
堅い社長の声がして思わず惚けそうな顔を戻しそちらを見ると、社長の目はとても険しかった。
「まさか、ヤクザと付き合っているんじゃ無いだろうね」
「え?」
責めているようにも取れる声色に私は困惑する。
「交際相手とかじゃないんだよね?」
「はい」
言い直し確認され、正直に答える。
キスをし、自宅の鍵をもらったけれど残念ながらそれだけだ。
私の返事を聞き、じっと見ていた社長ががくりと首を前に倒した。
「良かった。付き合ってるなんて言われたらどうしようかと」
「でもあんな素敵な人、ほんとにヤクザなのかなぁ。
とても優しくて丁寧だったし、綾菜さんを探して助けてくれたんだよ?
もしかして警察の人なのかも」
よほど美東さんが気に入ったのか、うっとりと話す絵理奈ちゃんを社長が一喝した。
「それがヤクザだろう!」
大きな声に私も絵理奈ちゃんも驚いた。
「いいかい、映画やドラマじゃ無いんだ、昔のようなわかりやすい暴力団は減って一般人にしか見えない連中が増えている。
一見まっとうな仕事しているようでも、所詮はヤクザ、底辺の人間だ。
それをカモフラージュするために、人が良さそうに振る舞ってるだけなんだよ。
そうやって絵理奈は簡単に騙された、そういう事だ」
社長の厳しい言葉に、絵理奈ちゃんは傷ついた顔をした。