紳士な若頭の危険な狂愛
「愛しています、綾菜さん」
低く甘美な囁き。
その甘さの裏には、狂気が隠れている。
それがわかったのに、怖さよりやはり嬉しさが上回っていた。
「私はここまで一人の女性を狂おしく思ったことがないのです。
貴女を側に置けるのなら、私は手段を選ばないかもしれない。
だから、貴女を逃がしました」
彼は、ここで言葉を止めた。
だけどそれで納得できるはずが無い。
「正直、困惑というか混乱しています」
「そうでしょうね」
彼は自嘲気味に笑う。
「わからないのは、私を手放しておいたのに組長さんと私がらみの賭けをしていたことです。
何を賭けて、美東さんが勝つとどうなるのですか?」
「ここまで私の異常さを話したのに、貴女はまだ逃げずに踏み込もうとするなんて」
「私だって生半端な気持ちで本部まで行ったわけじゃありません。
美東さんに惹かれているからこそ出来た行動です」
「親父さんにも言われたでしょう?
この世界はカタギの貴女が来るべき場所では無いと」
「でも美東さんは私を側に置きたいんですよね?」
負けじと言い返せば、彼は小さく吹き出した。