紳士な若頭の危険な狂愛

泣いてはいけないのに涙があふれそうになるのを唇をかんで耐える。
それでも瞳から落ちそうな涙を、彼がそっと拭ってくれた。
彼は自分が狂気のような欲望を抱いているといいながら、最後まで私を縛り付けることをしなかった。
彼と話したい。
話をしたいのに、なかなか言葉が出てこないのがもどかしい。
しばらくして彼が口を開いた。

「車で送りたいのですが、私を見かければ周囲の方が心配するでしょう。
タクシーを呼びますから」

「でもまだ六時過ぎです。
どっか一緒にご飯とか」

なんとか話す時間を作ろうと提案をする。
だけど美東さんは首を横に振った。

「私だってそうしたい。
ですがこれ以上一緒にいればきっと貴女を帰せなくなるでしょう。
良い子だから言うことを聞いて下さい、私のために」

彼の手が私の顎を軽く掴み、彼の顔が近づく。
私は静かに目を瞑る。
最後になるかもしれない口づけを、今はただ感じていたかった。

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