いつしか愛は毒になる
私はすでに回収を済ませたが、早苗に内緒でダイニングテーブルの下に盗聴器を仕掛けていた。だから早苗が雅也に乱暴されたことは把握していた。早苗は愛おしそうにお腹を撫でると穏やかに言葉を紡ぐ。

「実はね。少し前に偶然幼馴染に再会して……いま一緒に住んでいるの」

(偶然ねぇ……)

私はさも初めて聞いたかのように驚いて見せる。

「ほんと偶然ね」

「えぇ。お腹の子供は正直、どちらの子供か分からないけれど、でもそんなことどうでもいいの。今度こそ私を愛してくれて心から必要としてくれるのならばそれ以上は何も望まないわ。ただ私も精一杯の愛で返すだけ」  

「ふふ。早苗さん、強くなったわね。さすがお母さんね」

その言葉に早苗がはにかむように笑うのをみて私はそっと席を立った。

「じゃあ、末永く……《《智さん》》とお子さんとお幸せにね」

早苗が私の口から出た、智の名前に何か言おうと口を開いたが、私は背を向けた。

そしてパンプスを鳴らすと颯爽と喫茶店をあとにする。
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