冷酷御曹司の〈運命の番〉はお断りです

運命の番

 私が「運命の番」に人生をめちゃくちゃにされたのは、これで二度目だった。

 一度目は、七年前。私が十八歳の時。私の姉が、アルファ性だった婚約者の男に婚約破棄をされたのだ。婚約者は「運命の番」を見つけたと言って姉を捨てた。姉は気丈に笑っていたが、数日後に死んだ。自殺だった。

 奇しくもその日は、十八歳で国民全員が受けさせられる、「第二の性別」検査の結果が判明する日で。

 私、雨宮(あまみや)茉優(まひろ)は「アルファ」だった。つまりは私の運命の番たるオメガ性の誰かが、どこかにいるのかもしれなかった。

 けれど姉の遺体を前に、私は決めた。

 ――絶対に、運命の番など作るまいと。

 それが一度目。

 そして二度目は――。

 むせかえるような「オメガ」の発するフェロモンに、私は取締役会室の床に膝をついていた。体の奥が熱い。オメガのフェロモンにこんなに反応するのは初めてだった。こんな風に、その頸に噛みついて、番にしてしまいたいなどと感じることは。

 歯を食い縛り、暴力的なほどの欲望をなんとか抑えて、私はよろよろと顔を上げる。そこには一人の男が倒れていた。一分の隙もなく高級スーツを纏った、美しい青年。

 私の勤めるクラウン製薬の若き社長、月読(つくよみ)(まさき)だ。

 彼は胸を抑えて体を丸め、苦しげに息を荒らげていた。いつも端正に整えられている黒髪は乱れ、秘書課への配属希望者数を跳ね上げた美貌は赤く染まり、汗が滲んでいる。表情を隠すように俯き、私の方には目もくれないが、きっと考えていることは一緒だろう。

 一体どうしてこんなことになった――⁉︎
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