冷酷御曹司の〈運命の番〉はお断りです

あと5分

 辿り着いたのは、都心の高層マンションの上層階の一室だった。

 広々とした部屋。全体的にモノトーンで統一された家具。ショールームみたいだった。綺麗だけれど生活感がない。

 私はダイニングの真ん中で立ち尽くす。

 黒い革張りのソファに白木のダイニングテーブルが置かれ、窓にはカーテンがかかっているが、その向こうにはさぞや綺麗な景色が望めるのだろう。

 促されるがままここまで来てしまったが相当まずい状況だ。

「……ここは一体?」

 カウンターキッチンで何か用意しているらしい社長が答えた。

「俺の家だ」
「さっき私に謝罪していたのは何だったんですか⁇」
「構わないと言ったじゃないか」
「家に連れ込んで構わないとは言ってません」

 コーヒーの匂いが漂ってきた。どうやら社長は来客にお茶の用意をしてくれているらしい。

「砂糖とミルクはいるか?」この場にそぐわぬ気遣いに満ちた質問が飛んでくる。私は頭を抱えた。この状況で? 正気か?

「いやいやいや帰る、帰ります」

 バッグを抱えて玄関へ向かおうとしたところで、社長に進路を阻まれた。

 社長も大概背が高い。だが私は懸命に顎をそらし、社長の体を押し退けようとした。

「退いてください」
「させるか」
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