冷酷御曹司の〈運命の番〉はお断りです
 私はぶるぶる震えながら、社長を見上げていた。

「なんで、そんなに……」

 秒針の音が耳元で響く。社長の腕時計だ、と気づいた。
 あと五分、と社長は言った。今私には、どれくらいの時間が残されているだろうか。
 逃れ得ない運命の瞬間が目の前に迫って、胸の底から熱いものが込み上げてくる。

 ひっく、としゃくり上げた。社長が驚いたように目を見開く。

「いやだぁ……やだよぉ……」

 私の両目からはとうとう涙が零れた。子供みたいにボロボロ泣きじゃくり、いやいやと首を横に振る。

「運命の番なんて絶対に作りたくない……」

 社長は眉尻を下げて私を見下ろしていたが、やがてぎこちなく訊いてきた。

「……どうしてだ」

 優しい手つきで頭を撫でられる。その温もりに、余計に涙が溢れて止まらない。
 だって、だって。

 ――お姉ちゃん。

 譫言のように呟く。社長の手がハッと止まる。
 そこが限界だった。
 ぶつんと緊張の糸が切れ、私は社長の下で気絶した。
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