冷酷御曹司の〈運命の番〉はお断りです

楽しい居候生活

 一時は死を覚悟したが、思いのほか共同生活は上手くいっていた。掌も無事だ。
 何しろ部屋だけは馬鹿みたいにあるし、私も社長もそもそも仕事が忙しくて帰らない。
 私からすれば良いホテルに泊まっているようなものだった。

「では行ってきますね」

 それでも朝だけは必ず顔を合わせる。朝食を摂っている社長の横を通り過ぎ、私は挨拶した。

「今日は俺も会社に直行するから、雨宮も一緒に車に乗せていけるぞ」

 トーストを齧る社長がさも親切そうに言う。私は笑みを貼り付け、ヒラヒラ手を振ってみせた。

「お気遣いなく! 噂になると嫌なので!」
「そんな振られ方は初めてだ」

 社長が可笑そうに笑う。ずいぶんくつろいだ表情に一瞬だけ目を奪われて、私は玄関へ向かった。
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