冷酷御曹司の〈運命の番〉はお断りです
「な、なんだそれ……っ」
「そこまで笑わなくてもいいじゃないですか⁉︎ ええ~、後はなんでしょう、睡眠時間とか?」
「やめろ、笑い殺す気か。……決まっているだろ、オメガであることだ」
「はあ。それは欠けているわけではなく、元からそういう形なのでは?」

 私の方がポカンとしてしまう。思ってもみない回答だった。

「歌が上手いとか、足が遅いとか、そういうのと同じだと思ってました。欠落なんて言わないでくださいよ。悲しいじゃないですか」

 私はじっと社長を見据える。

 オメガが欠落だというなら、アルファもベータもそうだろう。そんなものから生まれるのが運命の番だとしたら、振り回されている私たちが馬鹿みたいだ。

 社長は口元を引き結んで、私の視線を受けていた。
 その瞳の底に天井からライトの光が差し込んで、微妙に揺らめいていた。

 やがて、社長がそっと目を伏せる。綺麗に空になった皿に、静かにスプーンを置いた。

「……ああ、そうだな。美味いシチューだった。礼を言う」
「お礼は片付けでいいですよ。私は寝ます。おやすみなさい」

 翌朝キッチンに行ってみると、きちんと鍋まで片付けられていた。以降、私は時々、夕食を多めに作って冷蔵庫に取っておくようにした。
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