冷酷御曹司の〈運命の番〉はお断りです
 それを誤魔化すようにPCをいじり、とりあえず資料データを保存しておく。
 それにしても経歴を言葉にされると差がすごい。この人どんだけ優秀なんだ。

 社長が私の隣に座り、足を組む。頬杖をついて、意地悪っぽく笑いながら私に顔を向けた。

「報告が上手くいったら、何か褒美をやろうか」
「ええ? いりませんよ、これは仕事ですし……」

 私の返事に、社長がきょとんとして目を瞬かせる。

 なんだその反応、と思って見つめ返すと、彼はなぜか口元を手で覆って、顔をそらした。

「……家に帰りたいと言うかと思ったんだが」
「あっ、そうですね⁉︎ じゃあ、このルームシェアを解消しませんか⁉︎」
「もう遅い、非承認だ」

 社長が楽しそうに笑い声をあげ、当然のように腕を伸ばして私の体を抱きしめる。

 それはつい、という動きで、私どころか社長自身でさえ驚いたように体を硬直させた。

 薄いカーディガン越しに、社長の腕の逞しさを感じる。
 耳元に響く激しい鼓動の音が、自分のものか社長のものなのか分からない。
 顔全体が燃えそうに熱くて、私はぎゅっと目を瞑った。

 社長の手が私の顎にかかって、繊細な手つきで上向ける。吐息がひどく近いところで聞こえた気がした。

「……あの?」
「いや、褒美は別の何かを考えておけ」

 急にパッと手を離すと、社長は足早にダイニングルームを後にする。
 遠ざかっていく足音に耳を澄ましながら、私はゆっくり瞼を上げた。

 まだ心臓は高鳴ったままだ。

 唇に手をやって、それから強く頭を横に振った。キスされそうになったとか、そんなわけ、ない。

「……資料、確認しなきゃ」
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