冷酷御曹司の〈運命の番〉はお断りです
 曇ったアーケードの屋根が、暑さを帯び始めた日差しを遮ってくれる。花屋は商店街の真ん中にあった。

「私はいつも、ここでお花を買うんです。お店の方は、子供の頃から私を知っています」

 柾さんに説明し、私は店のガラス戸を開けた。すぐに奥から初老の女性が出てくる。彼女は私の顔を見た瞬間、パッと表情を明るくした。

「あら、茉優ちゃんじゃない!」
「おばさん、ご無沙汰してます。今年もいつものお願いできますか」
「はいはい、ご家族への花束ね。……ところで、後ろのカッコいい方は知り合い?」

 私の背後に立つ柾さんを見上げ、興味津々という顔つきで訊ねる。
 何と答えようか迷ったところで、彼が自然な仕草で私の肩を抱いた。

「ええ、とても深い仲です。私の分の花束もお願いできますか」

 嘘じゃないが、ほとんど嘘だろ!

 柾さんを睨み上げるが、彼は痛くも痒くもないようだ。おばさんが色めき立つ。

「あらっ、じゃあ今日はご家族へ良い報告かしら」
「そんなところです」

 それは完全に嘘じゃないか。
 だが私も騙し討ちでここに連れてきている負い目があるので、曖昧な微笑を浮かべて中途半端に頷いてみせた。
 おばさんがますます目を輝かせる。

「まあ本当に⁉︎ あなた、本当にこの子は幸せにしてあげなきゃダメよ」
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