冷酷御曹司の〈運命の番〉はお断りです
 オメガであると明かすことが、どれほどの社会的不利益を呼び込むか。

 私は素早く部屋を見渡した。第二の性を理由に、社長を糾弾するような人間がいないとも限らない。

 ややあって、さっきまで社長を追及していた取締役が口火を切った。

「私たちが悪い事をすれば、多大な損害賠償を背負わされるんですよね」

 彼は事業部叩き上げの取締役だった、と思い出す。
 事業部時代には、ずっと抑制剤の開発の最前線に立っていたという。

「我々の会社の作る薬を求めているお客様がいる。だったら、やる事は一つです。徹底的に戦うしかないでしょう」

 賛成だ、という声が口々に上がる。社長は呆然とその様子を見つめている。
 隣に座った取締役がその腕を励ますように叩き「で、何か策があるんでしょう」と促した。

 まだ信じられないという顔をしている社長に、法務部長がプレゼン台に立って説明を始める。
 私もプロジェクターに資料を投影した。

「当社は、買収防衛策を導入しております」

 買収防衛策とは、相手から仕掛けられた買収を防ぐための策だ。

 その一つが、全部取得条項付種類株式。

 簡単に言えば、会社がその全部を取得できる株式のことだ。

 今回で言えば、クラウン製薬が自分の会社の株式を購入し、市場に存在する株式を減らすことで、鏑木商事の株式買付を阻止する。

 そんな部長の説明に、安堵した空気が室内に流れる。しかし、私はずっと胸騒ぎを感じていた。
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