冷酷御曹司の〈運命の番〉はお断りです

月読柾の献身

「全部取得条項付種類株式の取得に必要な条件って何か知ってる? 雨宮茉優」

 クラウン製薬本社ビル最上階、社長室にて。

 大きなモニターに映る鏑木東生のニヤニヤ顔に、私は心底ムカつきながら対面していた。

「……主に、株主総会での特別決議ですね」
「ご名答。さすが優秀だなぁ」

 ぱちぱち、とやる気のない拍手が送られる。私は懸命に無表情を貫いていた。隣でモニターを眺める社長も、白けた様子で椅子にもたれている。

 取締役会後、私はこっそり社長に引き止められた。
 何事かと思っていると社長室に連れていかれ、こうして鏑木とWeb会議しているというわけだ。

「じゃー、次の問題。特別決議に必要な株主の賛成率は?」

「弊社においては、株主総会に議決権の三分の一を有する株主が出席し、当該株主の議決権の三分の二以上の賛成が必要です」

「すごーい、さすが柾の運命の番だねぇ。鏑木商事に来ない? キミみたいな優秀な子、僕好きなんだよね。顔も可愛いし」

「――いい加減にしろ」

 割り込んできたのは社長だ。苛々と机を指で叩き、

「用件は何だ。さっさと言え」
「全く、そんなに怒るなよ。短気な男は嫌われるぞ。俺は嫌いじゃないが」
「切る」

 社長が本当に「退出」ボタンを押そうとしたので、私は慌てて止めた。
 まだ話を聞いていない。
 画面の向こうでは鏑木が笑い転げている。

「一応、最後通牒だよ。柾、本当に僕と結婚するつもりはない? 今僕に頭を下げたら、買収をやめてあげてもいいけど」
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