冷酷御曹司の〈運命の番〉はお断りです
「断る」

 断固とした口調だった。社長は鏑木を激しく睨み、

「くだらない。考慮にも値しない」
「はは、そう。それは茉優ちゃんがいるから?」

 一瞬、社長の返事が遅れた。

「――彼女は関係がない。手を出すなよ」
「どうしよっかなぁ」
「鏑木東生」

 社長の声がひどくおどろおどろしく響く。

「雨宮茉優は無関係の一般社員だ。手を出せば社会的制裁を受ける事になるぞ」

 鏑木が口をつぐむ。私と社長の顔を見比べ、皮肉っぽく吐き捨てる。

「ふぅん? 大した献身ぶりだ。オメガの慕情なんて、報われるわけないのにね」

 画面が暗転した。
 息を殺して二人の会話を聞いていた私は、社長が大きなため息をついて椅子にもたれたのを合図に、恐る恐る口を開いた。

「あの、つまり、今のは……?」
「雨宮に手出しする可能性があったから脅しておいた」
「て、手出しって……」
「手段さえ選ばなければ色々ある。雨宮が俺の運命の番になるのが嫌になるような目に遭わせるとかな」

 私はぞっとして思わず二の腕をさすった。鳥肌が浮いていた。
 社長が安心させるように微笑みかけてくれる。

「まあ、そんな事にはならないから、雨宮は気にしなくていい。呼びつけてすまなかった。もう業務に戻って構わない」
「は、はい……」

 大人しく出口へ向かいつつ、私の頭には鏑木の声が反響していた。

「献身」「オメガの慕情」

 その通りだ。社長は私に、惜しみなく大切なものをくれている。私は何も返せていないのに。
 胸が塞がって息苦しい。
 エレベーターに乗り込み、私はため息をついた。
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