冷酷御曹司の〈運命の番〉はお断りです

運命の番はここにいる

 株主総会当日は、朝から曇り空が広がっていた。

 鏑木商事による敵対的買収は大きなニュースになっており、総会会場である都内のホテルには大勢の人が詰めかけている。

 私はスーツを着用し、事務局として働いていた。議決権の集計が私の仕事だった。

 事務局としてあてがわれたホテルの一室。議決権の事前行使率をPCで確認し、唇を噛む。

「足りない……」

 今年はかつてないほど議決権の事前行使率が低かった。

 例年は八割近くが事前行使し、総会に実際に出席するのは百五十人程度だったというのに、今年は事前行使率が五割で、出席者数は未知の世界だ。

 これで後はもう、総会会場での賛成数がものをいうわけだ。

 唸っていると、西田先輩がバタバタと部屋に駆け込んできた。

「雨宮さん! 社長どこ行ったか知らない?」
「この時間なら役員リハでは?」
「もう始まるのに社長だけ来ないの。秘書課の人も知らないって言うし、あと十五分でリハ始まるのに!」

 ざわりと不吉な予感が肌を撫でる。

 社長に限って、逃げるなんてあり得ない。いないということは、不測の事態が起きたのだ。

 そして、社長に起こる不測の事態など、一つしか考えられない。

 私は居ても立っても居られず部屋を飛び出した。
< 50 / 56 >

この作品をシェア

pagetop