冷酷御曹司の〈運命の番〉はお断りです

運命の番はお断り

 もちろん、私に逃走が許されるはずもなく。

「雨宮、明日の取締役会の資料で確認したいことがあるんだが」

 痛みによって衝動を振り払った後、私は大変苦労しながら社長を社長室に放り込み、自分は療養室で傷の手当てをして、何事もなかったかのように業務を続けた。
 六月下旬の株主総会を二ヶ月後に控え、休めるような状況ではないのだ。

 だが定時後、法務部の居室に現れた社長を見て、やはり休めばよかったと後悔する。
 隣の席の西田先輩が「資料の指摘はヤバいって。早く行きな」と私の肩を突いた。

 のろのろと立ち上がる私を尻目に「月読社長って遠くから見てる分には目の保養よねー」と頬杖をついている。私もそれになりたい。

「……あの、何か資料に不備が……?」
「ここで話せる内容ではないから、社長室まで来てくれ。それと、直帰になる」

 絶望的な思いで社長を見上げる。
 彼はこの上なく綺麗に笑い、親指で居室の外を示した。
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