冷酷御曹司の〈運命の番〉はお断りです
 運命の番とは、アルファとオメガの間にだけ生まれる、特別な絆だ。

 誰かが診断してくれるわけではない。

 ただ、その人と出会った時には必ず分かるという、唯一無二の運命の相手。

 アルファがヒート中のオメガの頸を噛むことで、番は成立する。
 そうやって番を得たオメガは、以降ヒートが収まり、フェロモンを出すこともなくなるのだそうだ。

 まるで御伽噺のように、王子様とお姫様はいつまでも幸せに暮らしました、というわけだ。
 その陰で村娘が泣いていようとも。

 私の疑問に、社長が頷いた。

「だろうな。あれほど激しいヒートは初めてだった。正直に言えば、俺は今、認可ギリギリの抑制剤を服用している。そうしないと、雨宮と目も合わせられないからだ」
「えぇっ⁉︎」

 ギョッとして思わず社長を見つめ返してしまう。

 普段通りに見える……が、確かに少し顔色が悪いかもしれない。まじまじ瞳を覗き込むと、わずかに視線が揺れた。

 その奥に情欲が滲んだ気がして、私は慌てて身を引く。またあんなことがあったら、今度は万年筆では済まない。
 フォークの先端で傷口を抉る想像をして私は気を鎮めた。

「雨宮は何も感じないのか?」

 社長は見定めるように目を細めた。私は腕を組み、うーんと唸る。
< 8 / 56 >

この作品をシェア

pagetop