【短】水溜まりに映る花火は、綺麗だった
「大人しくしてろ」
右の拳をみぞおちに打ち込んだその人は、気絶するように倒れ込んだおじさんへ背中を向けて、しゃがみ込む。
「……大丈夫か?」
差し伸べられる手。
横から花火に照らされたその顔は、世界で一番綺麗で、かっこよかった。
「あ、なた……は……?」
絞り出した声は掠れていて、きっと聞き取りにくかった。
それでも彼は私の目をじっと見つめて、答えてくれた。
「西蓮寺氷柳」
「さい……れんじ……」
ひりゅう。
私を、助けてくれた人。
「君は?」
どくん。どくんと、鼓動が聞こえる。
「田中……結愛」
久しぶりに口にした、自分の名前。
耳馴染みも薄かった。
彼は目を伏せて「田中、結愛……」と復唱すると、アーモンド形の瞳を私に向ける。