【短】水溜まりに映る花火は、綺麗だった
エピローグ
―1年後―
「早く早くっ」
先に坂を上がって手招きする。
雲が晴れた空は、まだ何も描かれていない黒いキャンバスと同じだ。
隣に彼が来ると、右の手のひらに温もりが触れる。
自然と絡めた指を折り曲げながら、私は隣を見てにこりと笑った。
「間に合ったね」
「あぁ」
彼の目元が和らぐ。
今はその微細に変化した表情が、彼の笑顔だと知っている。
にこにこと、幸せを噛み締めるように彼を見つめていると、ドォンという音と共に空が明るく光った。
私は慌てて視線を前に向けて、光の線で描かれた大輪の花を見る。
「わぁ……」
「……綺麗だな」
1発目の花火が消えると、2発目、3発目の花火がドンドンと打ち上がった。
周りに遮るものがないこの場所からは、黒いキャンバスを生き生きと彩るその花がよく見える。
「うん……っ」
来年も再来年も、彼と一緒に花火を見たい。
彼の隣に、ずっといたい。私は流れ星に願掛けをするように、大きな花火を見上げて、この気持ちが現実となることを願った。
そんな心の内が伝わったのか、彼はぎゅっと、私の手を握る――。
[終]