妖しく微笑むヴァンパイア
プロローグ



 このご時世に、
 ヴァンパイアの存在を一体どれくらいの人間が信じてくれるだろうか。


 絵本や映画で知ったことはあっても、
 実際に「見た」「会った」という人間の話を聞いたことがないし。
 ましてや「血を吸われた」と証言する人もいない。

 だから架空のキャラクター、
 空想の怪物として扱われるヴァンパイアに対する恐怖心なんてものは、
 今や誰一人として持っていないと思っている。




 つまり、この私の存在もまた、
 この世界では埋もれていて。
 仮に「ヴァンパイアの末裔です」なんて正直に宣言しても、
 誰も信じないし恐れもしない。

 まあ、一生のうちに正体を明かす予定なんてことは、
 予定していないけれど。



 でも、それが正しい心構え。
 この十六年間、両親と私の家族三人穏やかに生活できているから。

 これからもどうか、誰一人として私に構うことなく。
 そして関わることなく健やかに生きていってください。


 私は私で、ヴァンパイアの末裔であることを一生秘めたまま。
 普通の人間を装い、高校生活を送っている最中だから――。




< 1 / 62 >

この作品をシェア

pagetop