社宅ラプソディ
そんなとき、助っ人があらわれた。
大学一年生、早水大輝、早水棟長の自慢の長男である。
「センター早水さんから、息子さんが夏休みに帰省する話を聞いたの。それでね、息子さんに 『学習クラブ』 のお手伝いをお願いできませんかと声をかけたの」
「センターさん、よく引き受けてくれましたね」
「それはもう、おだてて、ほめて、息子さんをもちあげたから。子どもを褒められて嫌な人はいないでしょう」
「五月さんもお世辞を言うんですね」
「ふふっ、こういうときは嘘も方便よ。いいえ、ウソじゃないわね、だって中央大学法学部の現役学生よ、優秀でしょう」
「あぁ、これで楽になるといいですね」
「そうなるといいわね」
そして、翌週……
夏休みになり帰省した早水大輝が 『梅ケ谷学習クラブ』 の手伝いにやってきた。
中学高校を社宅で過ごした大輝は、学習クラブの子どもたちの顔はわかっても名前はわからないと言っていたが、一緒に過ごすうちにたちまち覚えた。
子どもたちも大輝に注意されたことは素直に聞き、真面目に学習に取り組む。
同じ社宅で育った年上の彼の存在は圧倒的なものだった。
夏休みから参加の中学2年生と3年生の5名を五月が受け持ち、それ以外は大輝の担当になった。
五月の生徒には女の子もいて比較的静かな学習会であるが、大輝が受け持つのは男の子ばかり、言うことを聞くようになったとはいえ、元気がありあまっていることに変わりはない。
「こらっ、走るな! ここは学校の教室と同じだからな」
「えーっ、ここは学校じゃないし」
「だから走ってもいいのか? それ、同じことを家でお母さんの前でも言えるか?」
「うっ……」
お母さんに言いつけるぞ、と脅すようなことは言わない。
センター早水さんの子育ては上手くいったのねと、まだ子育ての経験もないのに、偉そうなことを明日香は思ったりもした。
明日香の心の声が聞こえたように学習会の途中から早水棟長がやってきて、息子の教える様子を遠巻きに見学している。
そこへ、もうひとり訪問があった。
『梅ケ谷学習クラブ』 への差し入れを持参した有栖川乙羽だった。