社宅ラプソディ
11月に入り、新居の片付けが落ち着いたから遊びに来ないかと美浜から誘いがあり、明日香は五月とともに新築祝いを持って出かけた。
庭付き一戸建ての注文住宅は、角地の立地もあり堂々と見えた。
新築の香りに包まれた家の中を、「わぁ、すてき……」 と何度も言いながら隅から隅まで見て回り、リビングのソファに落ち着いた。
明日香と五月は家に関する質問を思いつくまま向けて、美浜は両親から援助された頭金の額まで包み隠さず答えた。
「もう質問はありませんか」 と言われて、明日香は美浜との約束を持ち出した。
「グッチさんのバッグのこと、教えてもらえますか」
「あぁ、それね……引っ越したら話すって約束だったからね。うん、わかった」
コーヒーで口を湿らせた美浜はソファに深く体を沈ませて、「ここだけの話にしてね」 と念を押してから話をはじめた。
「グッチ小泉が、小泉課長のお義母さんを介護した話はしたね。小泉課長のところは夫婦とも四国、香川だよ。
おととしの夏、小泉課長のお母さんが入院して、課長は仕事が忙しくて離れられなくて、京子さんが雄君を連れて香川の実家に手伝いに帰ったの。
京子さんの実家に雄君を預けて、お母さんの病院に通いながら、手のかかるお父さんの世話をして、大変だったと思う」
小泉課長の父親も前の年に入院しており健康に不安を抱えていた。
小泉課長は長兄、ほかにも兄弟はいるが、大阪で仕事をしている次男は独身、妹は小さな子供を抱えており親の世話はできないため、同郷でもある小泉京子が頼りだった。
それまでグッチ小泉と呼んでいた美浜が、「京子さん」 と名前で呼んだ。
深刻な話になりそうで、明日香は両手を握りしめた。
五月も真剣な顔で聞き入っている。
「小泉さんちの上のふたりのお兄ちゃんは、専門学校にはいったとき家を出たから心配はいらない。けど、あのころは仕事が忙しくてね。
うちのもそうだったけど、仕事に追われて帰ってこない日もあったりしたから、小泉課長もこっちはこっちで大変だったと思う」
小泉課長は製造課、美浜の夫も同じ職場だった。
「だけどさ、忙しいのは理由にならないと思うんだよね……京子さんは、夏休みが終わるころに帰ってきたんだけど、それからなんか様子がおかしくてね」
「おかしいって、どんなふうに?」
「わたしと京子さん、おととしは子供会の役員と学校の役員を一緒にやってたから、京子さんに会うことが多かったんだけど……
いつも元気な人が口数も少なくなって、痩せていったんだよね。あの人が痩せたんだよ、普通じゃないって。
最初は何も言わなかったんだけど、私がしつこく聞いたから話してくれたんだと思うけど……
旦那さんが浮気してるみたいだって、怖い顔をして言うから驚いた」
明日香と五月は、そろって大きく息をのんだ。
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